反応集積化の合成化学 革新的手法の開拓と有機物質創成への展開(吉田 潤一)

研究領域名

反応集積化の合成化学 革新的手法の開拓と有機物質創成への展開

研究期間

平成21年度~平成25年度

領域代表者

吉田 潤一(京都大学・大学院工学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 有機合成化学は生物活性物質や機能性材料などの合成を通じ医学・薬学・材料科学等の広範な分野に大きく貢献してきたが、高度の活性や機能を発揮する有機分子の構築において依然として合成法が研究遂行上の律速となっていることも否めない。合成化学をさらに発展させ時代の要請に即応させるためには、今までに蓄積された莫大な知識に立脚し、より効率的なものへと再構築するとともに、新しい視点や斬新な手法を導入し、新たな高みへと飛躍する必要がある。本領域の目的は、時間的・空間的な反応集積化に着目し、短寿命活性種制御という特長を活かして従来達成困難であった分子変換法の構築を目指すとともに、実際の生物活性物質合成や機能性物質合成への展開を通じて実践的合成法に成熟させることである。すなわち、複数の化学反応を時間的・空間的に結合させて新しい直截的かつ効率的分子変換法を組立て、それらを利用して各種生物活性や機能をもった有機分子を精密かつ迅速に合成する化学という新学術領域を創製することである。
 本領域研究により、中間生成物の分離・精製が不要となるなど有機合成を飛躍的に迅速化・効率化できるだけでなく、時間的・空間的反応集積化の特長を活かして短寿命活性種を分解する前に利用する新規で直截的な分子変換が実現できる点で意義がある。このような研究成果は、有機合成化学の学術水準の飛躍的向上・強化に繋がるだけでなく、新物質創成を通じて医学・薬学・材料科学等の広範な分野に大きく貢献できると期待される。 

(2)研究成果の概要

 反応集積化法(A01)、生物活性物質の集積合成(A02)、機能性物質の集積合成(A03)の3つの研究項目について、互いに連携しながら研究を推進した。主な成果を以下に示す。
 A01においては、空間的反応集積化により、保護しないケトンカルボニル基をもつアリールリチウム種など従来合成的に利用できなかった不安定活性種を利用する化学量論反応が可能になることを実証した。また、触媒坦持法の検討とともに、同一時空間集積化を中心に実践的な触媒反応開発にも取り組んだ。さらに、気液二相系反応や電極反応、光反応などの反応においても空間的反応集積化が有効であることを実証した。
 A02においては、カルボニルイリドの逆電子要請型分子間1,3-双極付加環化によるエングレリンAおよびコプシロシンAの触媒的不斉合成など環骨格形成において同一時空間反応集積化が極めて有効であることを実証した。また、同一時空間反応集積化と時間的反応集積化を組み合わせて抗腫瘍性マクロリド天然物(-)-イグジグオリドの初全合成などを達成した。さらに、シアリル化反応、梯子状ポリエーテルの合成などにおいて、空間的反応集積化が有効であることを示した。
 A03においては、三段階の連続渡環環化と二量化を経由するインデノフルオレン二量体の合成などを行い、同一時空間反応集積化がπ共役多環化合物を一挙に構築する方法として極めて有効であることを実証した。また、三色エレクトロクロミズムを示す化合物の前駆体の合成などに空間的集積合成が非常に有効であることを見出した。 

審査部会における評価結果及び所見

A(研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

(1)総合所見

 本研究領域は、時間的・空間的な反応集積化に着目し、短寿命活性種制御という特長を活かして、従来達成困難であった分子変換法の構築を目的とし、生物活性物質合成や機能性物質合成への研究を展開している。有機化合物の効率的合成は、本研究領域で解決を目指す合成手法の非効率性以外にも様々な困難を伴うが、本研究領域における合成手法の集積化が成功すれば、この点が大きく改善され、有機合成化学の他分野への普及に繋がることが大いに期待される。
 また、本研究領域は、反応集積化法の構築、生物活性物質の集積合成、機能性物質の集積合成の3班から構成されており、力量ある班員が領域代表のリーダーシップのもとで活発に研究を行っている。研究成果は、論文、特許、シンポジウム開催等で幅広く公表されている。また、フロー・マイクロリアクター合成の普及啓蒙のための若手のトレーニングは評価すべき点である。
 以上により、本研究領域は設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められると判断する。今後もさらに研究を発展させ、新しい概念としての集積反応化学研究領域の確立のための展開を期待する。

(2)評価に当たっての着目点ごとの所見

(a)研究の進展状況

 「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」として、フロー・マイクロリアクターの普及啓蒙に務めており、これを研究領域形成の象徴的事例とする姿勢は評価できる。また、時間的集積化と同一時空間集積化について、領域形成による新成果を強く期待する。

(b)研究成果

 「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」として、本領域によって有機合成化学者が、集積化・効率化を更に強く意識したことは間違いなく、また多くの班員によって具体的な研究手法が開発されてきた点は評価できる。

(c)研究組織

 フロー・マイクロリアクター合成の普及のための若手研究者のトレーニングに関し特別な工夫がなされている点は評価できる。

(d)研究費の使用

 経費は適切に使用されており、特に問題点を指摘する意見はなかった。

(e)今後の研究領域の推進方策

 特に問題点を指摘する意見はなかった。

(参考)

平成23年度科学研究費補助金「新学術領域研究(研究領域提案型)」に係る研究経過等の報告書(※KAKEN科学研究費補助金データベースへリンク)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年02月 --