脳機能の統合的研究(丹治 順)

研究領域名

脳機能の統合的研究

研究期間

平成16年度~平成21年度

領域代表者

丹治 順(東北大学・包括的脳科学研究・教育推進センター・センター長)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 この領域は、「脳の機能を理解するために、多次元において行われる脳研究を推進すると共に、次元の異なる研究の連携を進め、統合的脳研究の展開をはかる」という観点から、研究企画・調整を行うと共に、統合的脳研究を育成し、研究実現を支援することを目的として設けられた。したがって多分野の脳研究の推進と研究協力の促進を目的とした研究支援活動を主たる目的としている点が、本領域の大きな特徴である。他方、統合的研究の遂行自体を目的とした計画研究及び公募研究も領域に包含しており、それらに於いては複数の研究手法による統合的研究を具体的に推進することを目的とした。
 脳を形成する分子、脳細胞、神経回路、脳のシステムという次元において、それぞれ高水準の研究を推進するのみならず、次元の異なった研究に携わる研究者の相互理解を系統的に進め、分野を超えた視点に基づいた、統合的な脳機能理解を求める体制を確立し、次元を超えた研究分野の連携による共同研究を醸成することを重点目標とした。他方、統合的脳研究の観点から、先端的脳計測技術及び先端的分子・遺伝子操作技術を活用した新たなバイオリソースを脳研究に適用するための支援を行うとともに、統合的脳研究を志向する脳研究者の育成を企図した。
 脳機能理解の波及効果は広汎に及び、多くの社会問題の解決に寄与する。他方脳機能理解の進展は、広域の分野の科学研究に相乗効果を及ぼすことは疑いない。

(2)研究成果の概要

 脳科学は次元の異なるレベルで研究を行う多数の分野が存在するが、この「統合脳」の特定領域研究では、分子脳科学、脳の細胞と神経回路の研究、脳機能をシステムレベルで扱う脳科学、及び脳の病態を扱う脳科学の複数の分野の研究手法を用いた、統合的アプローチによる研究を重視し、分野横断的研究企画によって成果を得た。計画研究4件においては、大脳視覚野の発達における感受性期の細胞生理学的変化と分子機構、大脳運動野出力損傷後の回復機構のシステム的解析と関与遺伝子の探索、Calbindin遺伝子導入によるサルDopamin細胞の機能保存、概念レベルでの行動制御における前頭前野の細胞活動特性等に代表される研究成果を得、Nature,Scienceを含む一流欧文誌に90編の論文を発表した。公募研究91件においても、脳科学の諸分野を網羅する脳研究が進展し、多数の異分野を統合した研究成果も得られ、その研究論文は欧文誌に発表された原著論文だけでも400編を超えるに至った。
 総括班は、研究交流を促進し、毎年全員参加による夏のワークショップ・冬のシンポジウムのみならず、異分野における脳研究を横断的に包括したシンポジウム・研究会や技術講習会、若手研究者育成シンポジウム等を毎年十数回企画する等、統合的脳研究の育成を先導し、支援することによって機能を果たした。他方支援班は、全国13ヶ所に設置された研究支援拠点を中心として脳科学に特化したバイオリソースの開発と供給を行い、研究支援の役割を果たした。特に遺伝子操作によって特定の受容体機能の欠失したマウスの開発や、遺伝子操作を加えた動物の機能評価バッテリーの開発などにおいて、顕著な成果があった。領域班員が支援班からリソースや新技術の供給を受けたケースは120件に達した。他方、異分野の研究室における若手研究者の派遣研修等により、学際的脳研究の育成にも貢献できた。また、広く一般を対象とした「脳の世界」特別展や公開講座等を開催するなど、アウトリーチ活動においても約18万名の参加を得る成果があった。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、ますます多次元的な広がりをみせる脳科学研究について、分子レベルでの機能解析からシステムとしての高次脳機能解析まで、多面的・統合的に理解することを目的とし、これらを集約する司令塔としての役割を担い、十分な成果をあげていると高く評価できる。本研究領域における個々の研究成果も多数あり、脳科学分野の統合的研究のモデルケースとして国際的にも高く評価できる。また、ノックアウトマウスの開発などのリソース開発拠点の整備をはじめとする支援活動も積極的に行われ効果的に活用されている。また、若手研究者の育成をはじめ、多次元かつ多面的な脳科学研究の推進を図る努力がなされるなど、マネイジメントも評価できる。更に、成果の公表や普及啓蒙活動も積極的に行われており、多くの波及効果があったことは特筆できる。
 一方で、自然科学分野に留まらず、人文・社会科学分野との連携を図るなど、分野を超えた視点に基づく総合的な脳の機能理解を目指していたが、脳科学分野による限定的な要素が強かったとの意見もあった。
 また、「統合脳」の終了以降、本研究領域が果たしてきた役割を考えると、今後脳研究を推進する上での組織、運営、方向性に関して幾つかの課題も指摘された。具体的には、5年間で整備されたリソース開発拠点を今後どのように恒常的に維持していくのか、脳研究のみならずその他の研究領域の研究者との異分野連携をどのように進めていくのか、更に、統合的かつ包括的な視点を持った若手研究者をどのように育てていくのか、などの課題があげられる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --