基盤研究に基づく体系的がん治療(上田 龍三)

研究領域名

基盤研究に基づく体系的がん治療

研究期間

平成16年度~平成21年度

領域代表者

上田 龍三(名古屋市立大学・大学院医学研究科・特任教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本研究領域は、他のがん特定4領域と共に、がんの本態解明とその克服を目指すという学術的かつ社会的要請の強い特定領域として設定したものであり、がんの基盤研究をもとに、我が国発の新たながんの治療法に関する独創的、かつ先駆的治療法の開発、そして、がんの体系的治療法の確立のために研究を推進することを目的とした。近年のがん研究の進歩により、分子標的治療の概念が生まれ、新しいがんの診断と治療法の創成を目指す気運が一気に高まっている。さらに、がん免疫の基盤的研究が発展し、ヒト癌抗原ペプチドが新しく同定されており、ワクチン療法や抗体療法も視野にはいってきた。さらに遺伝子治療や物理療法の新しい戦略、ドラッグデリバリーシステムに関する研究を支援し、がんの治療に大きく貢献することを目指した。この目的遂行のため、がん治療を視野にいれた基盤的研究やトランスレーションリサーチ(TR)を念頭に入れた研究を重点的に推進した。同時に、基礎研究の中からTRのシーズとなるような研究成果を発掘し、これをがんの診断・治療へ応用するための基盤作りの重要性が認識されているため、本研究領域ではTR検討委員会を設置し、こうしたがん特定5領域から生まれるTRのシーズを活かすための取り組みを展開した。なお本領域は他の4領域とともに、平成16年度より発足した「第3次対がん10か年戦略」の一翼を担う組織としても機能した。

(2)研究成果の概要

 本領域の研究は平成17年度に開始し、多くの研究成果が発表された。またいくつかの研究成果はマスコミなどでも報道された。上田龍三(領域代表)はT細胞腫瘍に対するケモカインレセプターCCR4を標的とした抗体療法の臨床第I相試験を欧米諸国に先駆けて日本で推し進めた。宮園浩平はTGF-β阻害剤の臨床応用の可能性について研究を進め、脳腫瘍のがん幹細胞にTGF-β阻害剤が有効であることを明らかにした。今井浩三は新規モノクローナル抗体に関する研究を進め、IFNαとFGFR1のモノクローナル抗体の併用が新しい肝臓がんの治療法となりうる可能性を示した。この他にも各研究項目で新たながん治療法に関する研究が進行し、計画研究による論文は1768編、特許の申請が145件に上るなど、目覚ましい成果を上げた。
 また領域内、領域間の連携や産学協同研究が積極的に進められ、新たな異分野融合型研究が発展した。総括班のもとにトランスレーショナル・リサーチ(TR)委員会が設置され、TRワークショップの開催、TRシーズに関するアンケート調査を行い、基礎研究を臨床研究へと発展させるために積極的な活動を行った。
 公募研究は平成17年度は採択率が低かったが、本領域では公募研究が重要であるとの認識から平成18年度以降は総括班を中心に公募研究の配分額を増加し、採択数の増加に努め、公募研究の活性化を実現した。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、がんの基礎研究によって得られた発がん、増殖、免疫監視機構などに関する知見を駆使し、ナノテクノロジーなどの新しい手法を取り入れることによって、基盤的研究に基づく新たながんの治療法の開発を目指したものである。研究領域全体としては、研究期間内に、分子創薬と分子標的治療、遺伝子治療、免疫・細胞療法、ドラッグデリバリーシステム及び新しい物理療法の開発等について、それぞれの研究項目が密接に連携しながら推進された。更に、トランスレーショナルリサーチに関して検討委員会を設けることにより、組織的な取り組みがなされた。その結果として、一部では欧米諸国に先駆けた新規の抗体医薬の臨床試験を日本で推進し、既にフェーズ2に入ったことは特筆すべき成果である。その他にも、シグナル伝達物質の阻害薬など、新たな分子標的治療薬の候補が発見され、既に数多くの質の高い論文が発表されるなど、当該分野における優れた成果をあげている。本研究領域で得られた成果が、今後の研究で更に発展することや、また、産学官共同研究等により、基礎研究から臨床研究への橋渡しを進めるトランスレーショナルリサーチの体系的な推進が行われることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --