がんの診断と疫学・化学予防(中村 祐輔)

研究領域名

がんの診断と疫学・化学予防

研究期間

平成16年度~平成21年度

領域代表者

中村 祐輔(東京大学・医科学研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 ヒトゲノム研究やプロテオミクス研究が急速に進展し、それらの情報を基盤に個々の患者のがんの発生と増殖、浸潤や転移、薬剤耐性などの悪性形質獲得にいたる病態の詳細な把握が可能になりつつある。また、SNPなどの遺伝子多型研究を体系的かつ網羅的に実践することによって、発がんリスクなど、これまで体質と呼ばれてきたものを科学的に解明することも必要である。これらの情報は個々の患者にもっとも適切な予防法や治療法を提供する基盤となるものと期待されている。また、研究成果をナノテクノロジーに代表する新しい技術と積極的に融合することによって、新しいがんの分子診断法の開発、オーダーメイド医療実践への応用、がんの発症前診断技術の確立、さらに、エビデンスに基づくがん化学予防の推進へとつなげることも可能になる。本研究領域は、がんの予防やオーダーメイド医療の基礎研究から臨床応用につながる研究を包括的に取組み、これらを有機的に連携させることによって、がんの予防を進めると共に、QOLの高いがんの治療の基盤を構築することを目的とするものである。発がんリスクなど体質や個々のがんの個性を科学的に解明し、体質にあった予防やオーダーメイド医療の基礎研究から臨床応用につながる研究を推進する。

(2)研究成果の概要

 「研究項目Y00:分子疫学コーホート研究の支援に関する研究」では、全国10研究グループの協力により60,000人の参加者を登録した。このうち4,667検体について108の遺伝子多型を測定し、30以上の課題についてデータを取りまとめている。「研究項目A01:がんの個性の分子診断」では、大規模・包括的なゲノム・エピゲノム解析技術の開発と標準化が推進され、それら革新的技術を基盤に多くの新規がん関連遺伝子やマイクロRNAの同定に成功した。また、種々の難治がんにおける浸潤、転移、薬剤耐性などの病態解明や悪性度診断、予後予測法などの成果が得られた。「研究項目A02:オーダーメイド医療への新戦略」では、オミックス解析データに基づく肺腺がん、神経芽腫、滑膜肉腫をはじめとする種々のがんにおける新規遺伝子診断、予後予測・リスク分類法の開発に成功するとともに、がん治療標的候補分子の発見やWT1を標的にしたがん免疫療法の開発に成功した。「研究項目A03:がんの民族疫学」では、アジアを中心とした国際疫学研究を展開し、インドネシアにはピロリ菌低感染率地域があること、HPV感染が上部消化管および呼吸器のがん発生に関与する可能性があること、イソフラボン摂取が乳がんリスクを低下させることを報告した。「研究項目A04:がんのリスク評価と化学予防」では、HTLV1キャリアーを登録追跡し末梢血ウイルス量などATL発病のリスク要因を突き止め、新規合成レチノイドの肝臓がん予防効果することを実証し、エコール産生者で前立腺がんのリスクが低いことを突き止めた。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域では、個々の体質やがんの個性を科学的に解明し、がんの診断や予防に繋がる研究を進めることを目指して、個々の患者にもっとも適切な予防法や治療法を提供する基盤の開発と、エビデンスに基づいたがん疫学・化学予防研究を推進した。その結果、10万人を目標対象者数とする分子疫学コーホート研究(現時点では約6万人。今後さらに10万人まで拡充。)により、がん発生に関与する生活習慣、生体指標、遺伝子型の組み合わせを探索検証し得る成果が認められており、今後の継続研究に期待が寄せられる。また、がんの悪性度などの診断法や個別化医療の実現に向け、世界的にも極めて優れた研究成果・業績をあげており、また診断マーカーが多数同定され、数多くの特許申請がなされているなど、今後のトランスレーショナル・リサーチ(TR)が期待される。これらの業績から、研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があったと言える。なお、今後のがん研究の支援のあり方として、分子疫学コーホート研究は時間を要する上、対象者数の確保や研究の継続性が最も重要であることから、これらの点に配慮していくことが必要ではないかとの意見があった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --