遺伝情報システム異常と発がん(野田 哲生)

研究領域名

遺伝情報システム異常と発がん

研究期間

平成16年度~平成21年度

領域代表者

野田 哲生(財団法人癌研究会・癌研究所細胞生物部)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本研究領域は、平成16年度からの「第3次対がん10か年戦略」の一環として、遺伝情報システムの異常に基づく、がんの発生・進展の分子機構を明らかにすることで、がんの予防・診断・治療に貢献することを目的として計画された。がんは、過去20年以上にわたって日本人の死亡原因の第1位を占め、「がんの克服を目指す研究」は極めて社会的要請の高い推進課題である。21世紀における新たながん予防法の確立や、がんの進展を抑制する薬剤の開発には、がんの発生と進展のプロセスにおける遺伝情報システム異常の統合的理解が急務であり、そのためには、環境中や生体内の発がん因子がヒトゲノム上の遺伝情報の異常を誘起するメカニズム、DNA修復や細胞死といった生体内の細胞機能により排除されるべき遺伝情報の異常が細胞のゲノム上に固定されるメカニズム、そして蓄積する遺伝情報の異常が遺伝子ネットワークの破綻を引き起こし、がん細胞の形質を段階的に変化させるメカニズム、等々の統合的な理解が必須である。本研究領域では、集積されたゲノム情報や飛躍的な進展をみせている生命科学の解析手法を駆使し、さらに深く、かつ詳細にヒト発がんの分子機構を解析し、がんの発生と進展の分子機構を「遺伝情報システム異常」を基軸として統合的に理解することにより、がんの予防や治療の新たな手法の開発に大きく貢献する知見を得ることを目的として研究推進を行った。

(2)研究成果の概要

 本研究領域では5つの研究項目を設定し、異なる視点からの「がんの発生と進展の分子機構」の解析を進めたが、いずれの項目においても、がんの発生と進展の分子機構に関して、多くの先進的な知見が世界に先駆けて数多く得られ、それらを基にして、「遺伝情報システム異常」を基軸とした、発がんメカニズムの統合的理解は大きく進展した。その結果、研究領域全体として、当初の予定を上回る成果を上げており、当初に設定された目的に向かって、充分な達成度を示している。具体的には、項目1では、DNA損傷乗り越え修復のメカニズムと、その発がんへの関与が明らかとなるなどゲノム修復機構の統合的理解が大きく進展し、項目2においても、染色体テロメアおよび動原体の構造的基盤に関する理解を大きく進展させる成果が得られている。項目3においても、動物モデルを用いた解析から、がんの発生と進展において機能する新たな分子群が数多く同定され、項目4においては、発がんにおける転写レベルでの遺伝子発現メカニズムの異常が、数多く明らかになった。項目5においても、ピロリ菌感染と胃がんの発生を繋ぐメカニズムが明らかにされるなど、炎症による発がんのメカニズムの統合的理解が大きく進展した。さらに、こうした統合的理解の進展により得られた知見をシーズとして、がんを制御するための研究も積極的に展開され、革新的ながん予防法や診断•治療法の開発にむけた進展も見られた。

審査部会における評価結果及び所見

A+ (研究領域の設定目的に照らして、期待以上の成果があった)

 本研究領域では、がん発生のメカニズムについて、遺伝情報システムとその異常という観点から理解することで、がんの予防・診断・治療に貢献することを目指した。本研究領域での研究成果として、まず、DNA損傷乗り越え修復のメカニズムと染色体テロメア及び動原体の構造的基盤に関する理解が進展し、これらの発がんへの関与が明らかになった。また、がんの発生と進展に機能する新たな分子群が数多く同定されると共に、発がんにおける転写レベルでの遺伝子発現メカニズムの異常を数多く明らかにした。更に、ピロリ菌感染と胃がんの発生を繋ぐメカニズムの一端を明らかにした。これらの研究成果は世界的に著名な学術誌にも論文として数多く掲載され、生物学分野のみならず他の関連学問分野にも大きなインパクトを与えた。また、新規薬剤の開発やトランスレーショナル・リサーチ(TR)に繋がる可能性が期待されるなど、総合的に見て、研究領域の設定目的に照らして、期待以上の成果があった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --