がん克服に向けたがん科学の統合的研究(谷口 維紹)

研究領域名

がん克服に向けたがん科学の統合的研究

研究期間

平成16年度~平成21年度

領域代表者

谷口 維紹(東京大学・大学院医学系研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 がんは依然として日本人の死亡原因の第1位を占めており、世界的にみても、2000年のがん罹患者数は今後更なる増加が指摘されている。従って、がんの本態を解明し、その克服を目指す研究は、極めて社会的要請の高い研究課題である。本領域を含むがん特定5領域は、科学研究費補助金科研費審査部会における「科学研究費補助金における今後のがん研究の推進方策について」の審議のまとめ(平成15年6月30日)に基づいて計画したものである。5領域全体が「がんの体系的理解と個人に最適ながん医療を目指して」をキャッチフレーズとして推進するため、本領域では、がん特定5領域の連携と効率的な運営を目指すとともに、研究全般に必要な支援を行い、がん研究に新しい研究の流れを導入するための研究を推進することを目的とする。まず、総括班(統合総括班)において、5つのがん特定領域を統合的に推進するための組織の構築と運営に関する方策を検討し決定する。そして、がん研究全体に必要な、モデル動物と資材等の供給、広報・企画、情報収集と提供、若手研究者の育成、国際交流を目的とした支援組織をそれぞれ設置・運営する。また、がん研究についての社会的理解や次世代を担う人材の育成への貢献などを目的とし、ワークショップや公開講座を開催する。倫理的観点ならびに科学的観点から、5領域内の研究者が「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」ならびに「疫学研究に関する倫理指針」を遵守し、社会の理解と協力を得てがん研究を適切に推進できるよう、本領域総括班の中に、倫理委員会を設置・運営する。以上、基礎から臨床まで、幅広いがん研究を統合的に推進することと、必要な支援を行う一方で、がん研究に新しい流れを産み出すことに本領域の意義がある。

(2)研究成果の概要

 本領域では「がんの体系的理解と個人に最適ながん医療を目指して」をキャッチフレーズとし、総括班(統合総括班)を中心に5領域全体の研究方針の策定や企画調整を行い、がん研究において必要な支援体制の充実を図るとともに、国内外への発信や情報交換を図った。がん特定5領域の有機的な連携と統合的な推進を目指し、お互いの情報・意見交換を行いながら、毎年複数回に及び、領域代表者会議、総括班会議を開催し全体の推進に重要な方策を検討・決定した。5領域合同公開シンポジウムを3回開催、いずれも盛会であった。支援班の研究支援活動も順調に進み、各領域の研究の推進に大きく貢献した。「がん若手研究者ワークショップ」、「青少年・市民公開講座」、「高校への出前授業」等の活動も盛況であった。倫理委員会も当該領域でのいくつかの課題について適宜開催され、適切な対応策を決定した。一連の活動の結果は、がん研究支援活動の重要性の再認識に繋がり、今後も新しい形で科研費によって継続支援される結果となった。一方、がん研究に関わる新技術の開発と新思想に基づく研究を遂行し、これらの成果をがんの予防・診断・治療に還元していくことを目的として、研究項目A01「がん科学のニューフロンテイア」を設置したが、そこではがんと免疫を繋ぐ新分子の研究、がん遺伝子情報伝達系の時空間制御機構の解明とそのインシリコでの再現研究、ナノゲル複合体を用いた免疫制御技術の開発、などを始めとして、今後のがん研究の進展の土台を築くような研究成果が挙げられ、特許の出願も全体で数十に上った。最後に、本領域は厚生労働省が支援するがん研究体制との連携の窓口としても機能し、他の4領域と共に第3次対がん総合戦略の一翼を担った;具体的には第3次対がん10か年総合戦略合同シンポジウムを2度開催するとともに、常にメール、会合などでお互いの連携を図り、研究者間の意見交換の場、連携・協力体制の醸成に努めた。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、がんの体系的理解と個人に最適ながん医療を目指し、「発がん」、「がん特性」、「がん診断と疫学」、「がん治療」領域とともに有機的な連携を図り、がん研究を一層推進するため、5領域全体に渡った研究支援や研究集会企画、広報などの運営を行った。また、新しいがん研究分野や技術開発を推進するため、研究項目に「がん科学のニューフロンテイア」を設置し、異なる分野の研究者を積極的に取り込みつつ、明日のがん研究・治療に活かせるような新研究分野の開拓を進めた。その結果、若手研究者への研究費支援や海外派遣のみならず、高校生への出前授業や市民公開講座を開催することにより、医学や生命科学への関心を高めるなど、国民・社会への研究成果の還元や、更には次代のがん研究を担う若手研究者の育成に繋がる大きな成果をあげている。また、動物実験モデルの作製や微生物モニタリングなど、5領域全体に対する研究支援活動も高く評価できる。加えて、「がん科学のニューフロンテイア」での研究により、世界トップクラスの優れた成果・業績をあげており、新規薬剤の開発が期待されるなど、総合的に見て、研究領域の設定目的に合致する十分な成果があった。なお、今後について、がん研究の支援や若手研究者の育成の継続性をいかに確保していくのかが大きな課題であるとの意見があった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --