LOV光受容体による植物の運動制御機構(島崎 研一郎)

研究領域名

LOV光受容体による植物の運動制御機構

研究期間

平成17年度~平成21年度

領域代表者

島崎 研一郎(九州大学・大学院理学研究院・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 植物は光をエネルギーとして光合成に、また、情報として形態形成、成長制御、運動反応等に利用している。これらの光の利用は植物に固有の働きで、植物の独立栄養的な生存を可能にするのみならず、地球上のほとんどすべての生物の生存基盤となるものである。光をエネルギーとして利用するのはクロロフィルやカロテノイドなどの光合成色素で、光を情報として利用する光受容体の主なものにはフィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピンが知られている。これらの光情報受容色素のなかで、最も新しく発見されたフォトトロピンは光屈性、葉緑体運動、気孔開口運動などの運動応答を仲介し、いずれも、光合成色素による光吸収の増大、あるいは、光合成の基質になるCO2の吸収を促進し、光合成の増大、ひいては植物の成長に寄与する重要な働きを担っている。フォトトロピンはLOV(Light/Oxygen/Voltage)光受容体の代表的なもので、植物において、新たなLOV光受容体が見いだされつつある。本研究の目的は、フォトトロピンが光を受容する初期光化学過程から、光シグナルの変換過程、情報伝達過程、さらに、多様な生理学的応答過程の全体に渡って研究し、その分子メカニズムを解明する事である。加えて、植物に存在の予想される新規のLOV光受容体を同定し、その、役割を解明する事である。また、イネなどの作物についてフォトトロピンの役割を解明し、作物生産への基礎情報の提供を行う。

(2)研究成果の概要

 フォトトロピン(phot)について、初期光化学過程における構造変化、シグナル変換の重要過程であるキナーゼ活性の制御機構、自己リン酸化されるアミノ酸の決定とその生理学的役割を解明した。自己リン酸化までは、光屈性、葉緑体運動、気孔開口、葉の平滑化など、調べたすべてのフォトトロピン依存の反応に必須であった。この下流で様々な生理応答反応に分岐すると考えられた。葉緑体強光忌避運動について、この応答を仲介するphot2が葉緑体包膜における存在、新規の葉緑体アクチン繊維の存在、その光による再構築が運動の駆動力になることを見いだした。気孔開口について、タイプ1脱リン酸化酵素(PP1c)が孔辺細胞におけるphotから細胞膜H+-ATPaseへのシグナルの流れを仲介すること、PP1cの制御蛋白質として新規蛋白質が働くこと、PP1cがアブシジン酸情報伝達系とのクロストーク点になることを解明した。さらに、phot2に依存して細胞内の存在部位を変化させる蛋白質を同定し、その機能解明を行った。ついで、phot2が葉肉細胞の伸長生長を制御し、柵状組織の形成に重要であることを示した。また、新規のLOV光受容体型転写因子としてオーレオクロムを発見し、その機能解明を行った。このホモログは黄色植物(ワカメ、コンブ、ヒジキ等)に普遍的に分布していた。さらに、新規LOV蛋白質LKP2の過剰発現体では乾燥ストレス耐性の増加、ジャガイモでは塊茎形成の誘導が起こることを見つけた。イネにおいては、phot1やNPH3のオルソログが存在し、光屈性や葉緑体運動に寄与した。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、LOVドメインを持つ青色光受容体フォトトロピン及び類似のLOV光受容体に焦点を絞り、集中的な研究を展開することにより、光による植物の生理・運動制御機構を解明することを目指したものである。即ち、フォトトロピンが光を受容する初期光化学過程から、光シグナルの変換過程、情報伝達過程、さらに多様な生理学的応答過程の全体に渡って研究し、その分子メカニズムを解明することを目的とした。加えて、植物に存在の予想される新規のLOV光受容体を同定し、その役割を解明するものである。この点でこれまでに、フォトトロピンの光反応機構(LOV2の構造変化)の解明やその自己リン酸化部位の決定と機能解明、孔辺細胞情報伝達成分の解明、黄色植物における新規LOV光受容体の同定など、当初目標に見合った世界レベルでの優れた成果をあげている。特に、フォトトロピン関連の発表論文のうち1/3を本研究班の発表が占めることは特筆に値する。また中間評価での指摘を受け、若手研究者の育成などにも着実に取り組んでいる。更には、将来的な植物工場などにおける生産性向上の観点で、応用研究に展開可能な有益な知見を得ていることも高く評価できる。
 一方で、当該分子の研究に対する貢献度は高いが、他の光受容分子及びその分子機構との関連や新たな展開という点はやや乏しいという意見や、得られた成果を植物関連の研究者と共有するための手段を考える必要があるといった意見があった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --