生体膜トランスポートソームの分子構築と生理機能(金井 好克)

研究領域名

生体膜トランスポートソームの分子構築と生理機能

研究期間

平成17年度~平成21年度

領域代表者

金井 好克(大阪大学・大学院医学系研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 生体膜物質輸送は、生体恒常性の基本であり、それを担う輸送分子(イオンチャネル、トランスポーター、ポンプ)の研究は、その分子実体の解明に到達したものの、近年では個々の分子の機能のみでは説明できない問題が表面化してきている。この「単一分子」のアプローチの限界を克服し、分子クローニングの成果を生理機能の理解へと繋げるために、本領域は、複数の輸送分子がその調節分子とともに集積して形成する分子複合体(膜輸送複合体「トランスポートソーム」)を生体膜物質輸送の機能ユニットとして捉え、その分子構築と複合体としての機能、生体膜環境との相互作用、細胞・組織・個体の生理機能や病態との関わりを明らかにすることを目的とした。
 本領域は、生体膜輸送研究分野での「単一分子から分子複合体へ」のパラダイムシフトを実践し、生体恒常性に必須の要素でありながら解析的研究が困難であった膜輸送機能共役の分子基盤解明への道を開いた。また、トランスポートソームの機能する「場」の役割に重点を置いた点も本領域の特徴であり、従来型の蛋白質間相互作用のみでは見えてこない膜輸送の新たな側面を明らかにした。このような新しい概念による生体膜物質輸送研究の展開により、生理学・基礎生物学の新たなフロンティアが開かれ、その成果は今後関連応用科学の分野の発展にも大きく寄与するものと期待される。

(2)研究成果の概要

 本領域では、分子構築と複合体機能の解析(A01)、生体膜との相互作用の解析(A02)、生理機能とその破綻による病態の解析(A03)の3つの観点からトランスポートソームの解明に取り組んだ。A01は「存在証明」であり、上皮膜トランスポートソームの実証、カベオリンを足場とするチャネル・NO産生酵素複合体の発見、プレシナプスアクティブゾーンのCa2+チャネルとシナプス小胞の物理的カップリングの発見は特に重要であり、分子集積による局所反応場の形成、すなわちトランスポートソームの機能的重要性を実証するものである。A02は、「場」の研究であり、蛋白質・脂質相互作用を基盤とする輸送分子間共役機構の発見、オルガネラ間あるいはオルガネラ内の輸送分子間共役機構の発見、蛋白質・脂質相互作用による場の形成機構の発見等の成果をあげ、場とトランスポートソームの相互作用を実証した。A03は、生体内でのトランスポートソームの機能を捉える研究であり、複合体形成が生理機能に重要であること、複合体異常が疾患の原因となることを見いだし、輸送分子が複合体の中に組み込まれて存在することの意義を実証した。加えて、本領域では複数膜蛋白質同時絶対定量、分子追跡・生体イメージング等の新技術が開発された。特に相互作用予測データベースは、公開されて世界中から多くのアクセスがある。本領域の成果は、当該分野への貢献とともに、「効率的に機能共役を実現し得る分子集積を探す」戦略を新しい技術基盤の上に実践し、未知の機能共役現象探索の道を開いた点でも評価されている。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、生体膜における物質輸送に関わる膜輸送分子の複合体を“トランスポートソーム”としてとらえ、その分子構築、機能、相互作用を明らかにするとともに、生理機能や疾患との関連の解明を目指したものである。本研究領域ではさまざまな分野の研究者が本課題に取り組み、この“トランスポートソーム”が機能的に実体を持った動的な分子集積であることが実証された。また、その生理機能の破綻がさまざまな疾患の病態形成に関与していることを示すことにより、応用研究へと展開できたことは評価できる。個々の研究成果のレベルは高く、十分な成果が得られ、次世代を担う若手研究者の育成にも成果をあげたと評価できる。研究内容の積極的公表・普及についても十分に行っていると評価できる。さらに本分野の研究が新たな視点で展開されることを期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --