細胞情報ネットワークを統合するG蛋白質シグナル研究の新展開(堅田 利明)

研究領域名

細胞情報ネットワークを統合するG蛋白質シグナル研究の新展開

研究期間

平成17年度~平成21年度

領域代表者

堅田 利明(東京大学・大学院薬学系研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 広範な細胞のシグナル伝達経路において、G蛋白質は「活性化と不活性化のコンホメーション転換(Gサイクル)」によって分子スイッチとして機能するという基本的概念が確立して久しい。しかし、その後も新奇なG蛋白質ファミリーや制御因子群が引き続き発見されると共に、他のシグナル伝達系とのクロストークやG蛋白質間の連鎖も見出され、G蛋白質をめぐる新しい知見は今なお集積している。本特定領域研究では、細胞機能の発現に向けてGサイクルが果たす生理的役割と合目的性、さらに制御メカニズムの詳細な解明から、諸種のG蛋白質ファミリー間で共通(あるいは相違)する制御機構を新しく概念化し、Gサイクルが介在するシグナル伝達系の統合的理解を深めることを目的とした。
 Gサイクルは生物界に広く存在し、ほとんど全ての細胞機能の発揮において中心的な役割を果たす重要なセル・マシナリーの一つであり、生命現象の根源を支えている。がん遺伝子Rasや三量体G蛋白質αサブユニットなどの例に見られるように、G蛋白質とその制御因子の遺伝子変異に起因した疾病も多く見出されており、G蛋白質シグナルの研究は疾病の発症メカニズムの理解と創薬研究にも大きく貢献する。さらに、本特定領域の進展による体系的・統合的理解の広がりは、他の関連分野に対しても多大な波及効果をもたらすものと期待できる。

(2)研究成果の概要

 本特定領域では、様々な角度からこの分野を牽引している第一線の研究者を計画・公募研究に組織して、諸種のG蛋白質ファミリーで共通する以下の課題を設定して研究を推進し、Gサイクルの統合的理解を深めた。また、その成果は他の関連分野にも大きな波及効果を与えた。
 1)土壌細菌から新規メカニズムを有するG蛋白質特異的阻害薬を見出し、創薬展開への可能性を示すなど、Gサイクルの素過程を調節する新規因子群の同定と機能解析を進め、Gサイクルの作動原理に関わる分子基盤を解明した。2)イメージング手法による生細胞での分子動態の捕捉、G蛋白質シグナルを局在化するプラットホームとしての膜ミクロドメインの同定など、Gサイクル始動の時間・空間的制御についての新たな機構を発見した。3)脂質シグナル系へのG蛋白質の介在、G蛋白質が接着分子の細胞への結合を増強する機構の可視化、神経軸索形成時の微小管タンパク質脱重合へのGサイクルの関与など、他のシグナル伝達系とのクロストークやGサイクル間の連鎖・協調作用と制御部位を解明した。4)ノックアウトモデル生物の作出等によって新奇G蛋白質群を網羅的に解析し、新たにリソソームや繊毛の形成・成熟に必須な新奇G蛋白質を同定すると共に、G蛋白質ファミリーの体系的な理解を深め、Gサイクルの生理的役割の拡大に向けて大きく前進した。
 また、領域ホームページの開設、ニューズレターの充実、全体班会議・国際シンポジウムの開催など、積極的に研究成果・情報を発信し、若手研究者の育成にも貢献した。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域では、細胞内情報ネットワークにおいて中心的な役割を果たすG蛋白質について、その作動原理、時空的制御、他の制御系との連携制御、生理的役割までを統合的に理解し、G蛋白質間で共通または相違する制御機構を概念化し、細胞機能の発現に至る特異性と多様性をもたらす機構の解明を目指し研究を行った。本研究領域では、恒常的作動型G蛋白質やリソソーム局在型のG蛋白質、マルチドメイン型のG蛋白質などの新規G蛋白質の発見、新規G蛋白質阻害薬の作用機序の解明など特筆すべき成果が得られている。特に、G蛋白質に対する新しい阻害機構の発見は、当該学問分野のみならず、臨床・創薬分野への波及効果も期待できる。また、若手研究者育成や、社会への研究成果の公表も積極的に行っており、バランスのとれた領域である。
 その一方で、構造解析・分子イメージングの手法を効果的に利用し、G蛋白質の多彩な機能を示した点は評価できるものの、当初期待された統合的理解としてのG蛋白質の新しい概念の提出には、更なる研究の深化が必要であるとの意見もあった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --