遺伝情報発現におけるDECODEシステムの解明(五十嵐 和彦)

研究領域名

遺伝情報発現におけるDECODEシステムの解明

研究期間

平成16年度~平成21年度

領域代表者

五十嵐 和彦(東北大学・大学院医学系研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 ヒトを含む全ての生命体は、そのゲノムにコードされた遺伝情報を基盤とした生涯をおくる。生涯にわたって、プログラム通りにその情報を正確に読みだすこと、そして、様々な生活環境に応じて読み出す情報の量・質を柔軟に調節することが重要となる。本特定領域では、遺伝情報発現機構をDECODEシステム(nuclear systems to decipher operation code)として捉え、遺伝情報の読みだし方に焦点をあて、その全体像を理解することを目指した。2つのグループが、(1)転写制御因子複合体やクロマチン構造制御複合体などの、読みだし反応を行うDECODE複合体、ならびに(2)DECODE複合体、その活性制御経路、そして標的遺伝子セットから形成されるDECODE回路を研究対象とし、DECODEシステムが多様な細胞・個体レベルの形質や機能の発現・維持に寄与するメカニズムと、その根本原理の理解を試みた。
 本特定領域は基礎研究の推進を目指したが、DECODEシステムは発生、分化、ストレス応答など、様々な生命現象の基盤となることから、本特定領域の成果はファンクショナル・ゲノミクスなど境界領域や医学、農学などへも大きな波及効果をもたらすものと期待された。

(2)研究成果の概要

 研究項目A01では、細胞分化、ストレス応答、増殖制御、クロマチンエピジェネティクスなどに関わると予想される様々な複合体の精製と機能解析を進め、ドメイン立体構造や複合体立体構造の解析を進めた。DECODE複合体の実体と機能が次々と明らかになり、複合体によるシグナル統合とクロストークの分子機構に関する理解が進んだ。メチオニンアデノシル転移酵素とメチル基転移酵素がDECODE複合体を構成し、核内クロマチン上でSAM合成とヒストンメチル化が共役制御されること、ヒストンH2Aのリン酸化とユビキチン化を制御する修飾酵素ネットワーク、エンハンソソーム形成制御機構の構造レベルでの理解などが進んだ。研究項目A02では、代謝恒常性維持、ホルモンシグナリング、増殖制御、細胞分化、発生、がん化などに関わるDECODE回路を解析した。非ヒストン蛋白質における翻訳後修飾コードを発見するとともに、がん抑制因子p53によるエネルギー代謝機構を解明し、癌細胞のグルコース依存性の本質を示した。また、グルコース濃度に応じてヘテロクロマチンを形成する新規回路と複合体、ヘム-転写因子回路を発見するなど、予想外の制御系を多数発見した。これらの他にも遺伝情報発現機構の根本原理を多数見いだすと共に、それらの細胞応答への関与を示し、今後の基礎研究および病態研究など応用研究の基盤を構築することができた。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、転写因子及びクロマチン修飾を制御する複合体による遺伝情報発現機構をDECODEシステムとして捉え、分子レベルでの研究が見事に合致した結果、ポストゲノム時代の新しい研究領域として高い研究成果をあげていると評価できる。また、こうした分子レベルでの研究を通じて、エピジェネティックなアプローチも含め、様々な生命現象の理解の一端が明らかにできている点も高く評価できる。本研究領域で得られた新しい知見は、多くの生物学分野に貢献しており、単に生物学領域にとどまらず、植物分野(植物バイオテクノロジー)に先駆的な研究成果が活かされているところも評価できる。さらに、若手研究者の育成も積極的に行っており、多くの次世代リーダーを輩出している点も顕著である。今後、生命現象における意義を考えると、酸化ストレス応答のような時間軸の早い反応と、細胞分化のような長い時間軸で起こる生体反応におけるDECODEシステムの果たす意義や、その時間軸に応じた作用機構の違いが明らかにされることを期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --