生体超分子の構造形成と機能制御の原子機構(月原 冨武)

研究領域名

生体超分子の構造形成と機能制御の原子機構

研究期間

平成16年度~平成21年度

領域代表者

月原 冨武(大阪大学・蛋白質研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 細胞内に有る蛋白質、核酸等の複合体である生体超分子の大きなものは、その分子量が1億Daをこえるものも有る。こうした超分子の多くは生命の営みの鍵となる役割を果たしている。これらの生体超分子の立体構造を原子分解能で明らかにする方法を開発し、構造決定を行うのが一つの目的である。そのためにはX線結晶構造解析、電子顕微鏡、中性子線解析、NMR、赤外分光などを利用した方法が考えられるが、我が国で実績のあるX線結晶構造解析と電子顕微鏡を組み合わせた方法を発展させることにする。これまでにない複雑な構造を決めて、その構造を詳細に検討することによって生体超分子それぞれの構造形成、離合集散する蛋白質のネットワーク構築の仕組みを明らかにする。
 リボソームに見られるように、単一の蛋白質のみならず巨大な生体超分子の立体構造は、原子レベルの正確さの再現性を保持して組み立てられている。どれほど大きな超分子がこの正確さをもっているか、その限界までがこの研究の対象になる。巨大な超分子が原子レベルの正確さをもっているのは、そのことが生命にとって必須のことであるためと思われる。巨大な超分子の精密構造解析を行い、そこで営まれる化学を解き明かし、高度に制御された生命機能の原子機構を解明するのがもう一つの目的である。
 すなわち、巨大さと精密さの両方へ挑戦する構造生物学の展開を目指すものである。このことによって、タンパク質やその複合体の機能している様子を視覚で捉え、生命現象の理解を深めることが出来る。

(2)研究成果の概要

 巨大な生体超分子のX線結晶構造解析ではいずれの球状ウイルスにも適用できるabinitio構造解析法を開発した。また、粒子の対称性を決定する新しい方法を考案して、ウイルス以外では最も大きく、分子量が1千万Daを超えるボルトの構造決定に成功した。
 電子顕微鏡による単粒子解析では同じ構造の粒子の像を平均して精度を上げる。任意の方向を向いた多数の像の配向を決定するアルゴリズムを開発して、IP3等の巨大な膜タンパク質複合体の低分解能構造決定に成功した。べん毛の構造解析では、電子顕微鏡像から求めた非結晶性の全体構造とサブユニットのX線構造と合わせて疑似高分解能構造を求める方法を適用した。新たなサブユニットが続々決定されてその構造形成機構がより詳細に解ってきた。
 イネ萎縮ウイルスの研究では、電子顕微鏡トモグラフィーをX線結晶構造解析や蛍光顕微鏡法と併用して、サブユニット合成、ウイルスの形態形成、感染機構を可視化することに成功した。
 精密X線構造解析法では、SPring-8ビームラインで精密実験法を確立して3.5オングストロームという低い分解能でも1電子数の違いを区別し出来るようにした。その結果、ギャップ結合チャネル等の構造決定や、永く懸案になっていたチトクロム酸化酵素の活性中心にある化学種の同定にも成功した。
 こうした領域研究を実施する中で、安易にサブユニットにばらばらにして構造を求めるのではなく、困難であろうとも機能している複合体の構造を決定して生命の理解を深める研究が定着した。

審査部会における評価結果及び所見

A+ (研究領域の設定目的に照らして、期待以上の成果があった)

 本研究領域は、機能単位としての生体超分子複合体の構造を原子レベルで決定することを目的としている。この困難な研究課題に対して、X線回折・電子顕微鏡・計算機シミュレーションの技術を駆使することにより、大きな複合体であるボルトの構造解析を始めとした、チトクロム酸化酵素のプロトンポンプ機構、細菌べん毛繊維の制御機構、細胞間ギャップ結合の構造機能相関を明らかにするなど、特筆すべき成果をあげている。これらの成果は、非常にインパクトが大きく、著名な国際誌に掲載されるなど、本研究領域設定時の目標を十分達成したと評価できる。本研究領域で得られた知見及び開発された新技術は、構造生物学のみならず生命科学全体への波及効果が大きいものと考えられることから、生体超分子の構造-機能相関の普遍的な理解への着実な一歩となり、今後の発展が期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --