単一磁束量子局在電磁波集積回路(吉川 信行)

研究領域名

単一磁束量子局在電磁波集積回路

研究期間

平成18年度~平成21年度

領域代表者

吉川 信行(横浜国立大学・大学院工学研究院・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 ピコ秒幅の微小電圧パルスを情報担体とする単一磁束量子回路は、スイッチングに要するエネルギーが極めて小さく、動作速度も高速であり、半導体回路を凌駕する優れた性能を持つ。一方、超伝導体導波路において局在電磁波パルスは形を変えずに弾道的に伝播し、単一磁束量子回路を柔軟かつ高スループットで配線することが可能である。この局在電磁波の高速信号伝送特性を利用することにより、単一磁束量子論理回路の性能を飛躍的に向上させることができる。また、この新技術は、回路設計の柔軟性を増し、従来の配線に制限された集積回路設計法から配線の高速性を積極的に利用した設計法へと回路アーキテクチャの面でも新たなパラダイムシフトをもたらす。
 本研究領域は、日本がオリジナリティーを有し世界を先導する単一磁束量子回路の研究分野において、新たに開発された局在電磁波による高速信号配線技術を積極的に導入し、本技術を将来の高性能集積回路の基盤技術として格段に発展させることを目的とする。
 単一磁束量子集積回路技術は、機能性に優れた半導体集積回路と高速伝送に優れたフォトニック集積回路の両者の特徴を持ち、これらの中間に位置する第三の極としての発展が期待される。これにより将来求められるスーパーコンピュータやハイエンドルータの構築が可能となり、情報通信分野における我が国の技術基盤を格段に発展させることができる。

(2)研究成果の概要

 本特定研究領域は、将来のサブテラヘルツ集積回路分野の確立に向け、新しい局在電磁波配線技術を前面に据えた単一磁束量子集積回路の研究を、デバイス製作技術、回路設計技術から回路応用まで総合的に推進した。具体的には、単一磁束量子集積回路の動作スピードと集積密度を高めるための基盤となる新しい材料・デバイス製作技術の創出、ならびに大規模で柔軟な集積回路の設計を可能とする回路設計技術の確立、更にそれらを利用した高速信号処理回路への展開を図った。
 デバイス製作技術の研究では、高い超伝導エネルギーギャップを持ち、高速・高温動作が可能なNbNやMgB2を用いたジョセフソン接合の実現を目指した。NbN接合には窒化アルミニウムトンネル障壁層を、MgB2接合にはアモルファス半導体層用いることで、これまでにない高品質な接合の作製に成功した。また、配線の微細化を目指して比誘電率の大きなアルミナを絶縁材料とする局在電磁波微細配線を作製し、それらの伝送特性を評価した。
 回路設計技術の研究では、論理ゲートと局在電磁波配線の接続方法の研究、3次元超伝導集積回路のインダクタンス解析方法の研究、局在電磁波配線を積極的に利用した回路設計方法論・設計技術の確立を行い、これらの成果に基づくCADツールとセルライブラリを開発した。以上の成果を用いて多数の加算、乗算器で構成される4ビットFFTプロセッサーを設計試作し、世界で初めて単一磁束量子FFTプロセッサーの25GHz高速動作実証に成功した。
 以上により、単一磁束量子論理回路の基盤技術を格段に進歩させることができた。一方、本領域での研究を通して、高エネルギーギャップ材料を用いた高効率磁場シールド法、高温動作を可能とする低雑音論理回路方式、超消費電力動作が可能な断熱モード単一磁束量子回路の提案と実証など、単一磁束量子回路の性能を飛躍的に向上させる新たな知見を得た。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、将来のサブテラヘルツ集積回路分野の確立に向け、新しい局在電磁波配線技術を前面に据えた単一磁束量子集積回路の研究を、デバイス製作技術、回路設計技術から回路応用まで総合的に推進したものである。比較的小規模の研究組織ながら先鋭的な研究成果が多く出ており、領域設定の目的を達成したと判断される。本研究領域終了後の新しい技術分野としての展開と、他の分野への波及効果を期待するという意見があった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --