マルチスケール操作によるシステム細胞工学(福田 敏男)

研究領域名

マルチスケール操作によるシステム細胞工学

研究期間

平成17年度~平成21年度

領域代表者

福田 敏男(名古屋大学・大学院工学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本領域研究では、細胞の素機能及び統合機能の制御方式を理解することを目指したシステム細胞工学に関する研究を行う。「システム細胞工学」は、細胞の構成要素の機能及び構成要素集団の統合機能を詳細に調べ、物理化学的環境及び細胞間相互作用を含む生物学的環境に応答したこれらの機能の制御機構を理解することを目的とする。特に、ナノ・マイクロからマクロスケールにわたる広域で微細な作業を行うための工学的操作(マルチスケール操作)技術に着目し、これを基盤技術として工学、生命科学、医学を融合し、学際的な研究を推進し、システム細胞工学の基盤を形成する。本領域研究の目標を以下にまとめる。

  1. 細胞をひとつのシステムと捉え、その構成要素の素機能と構成要素集合の統合機能、また環境変動に応答した素機能及び統合機能の制御様式を分子サイズで解明する。
  2. 単細胞集団や多細胞生物組織中での細胞ひとつに注目し、細胞間相互作用の生物環境の変動に伴う機能制御を解明し、細胞をシステムとして理解する。
  3. 得られた知見により、細胞機能を模倣したり、人為的に機能制御する技術を開発する。

 細胞内の構成要素の機能発現の仕組みや、組織における細胞間の相互作用の実体とそれが細胞内反応に及ぼす影響などに関して、新たな発見が期待できる。また、細胞構成要素の発現制御や組織の機能制御を実現することで、人工モデル細胞の構築や機能組織の構築に貢献する。

(2)研究成果の概要

 本領域研究では、ナノ・マイクロからマクロスケールにわたる広域で微細な作業を行うための工学的操作(マルチスケール操作)技術の開発と応用展開を柱に、異分野が融合した新しい学問の構築を進めた。このマルチスケール操作技術を用いて、細胞内外あるいは細胞間における化学的あるいは力学的相互作用を引き起こし、特性計測することで、細胞システムの仕組みを解明した。工学、バイオ、医学の融合による横断的研究を強力に推進し、システム細胞工学の基盤を形成した。
 A01班では、細胞サイズの小胞を反応場とする人工モデル細胞に関する連携研究を進めた。細胞サイズの実空間モデルの構築と細胞機能の模倣を目指し、操作技術を活用することにより、細胞サイズの小胞を反応場とする人工モデル細胞が自然発生できる実験条件を確立した。また、高濃度の機能的蛋白質を内包したモデルの構築など、世界を先導する多数の成果を得た。A02班では,生命機能の環境応答計測と制御を中心課題として、工学とバイオが連携することで新規バイオツールの創製と実験環境の構築を進め、細胞の個性を解析する研究領域を開拓し、細胞内各種構成要素の分子メカニズム・機能発現のしくみを明らかにした。A03班では、新規のマルチスケール操作・加工技術の開発を進め、細胞・細胞外環境・組織・骨格基材の各対象にわたる構造力学特性と生体機能発現との相関の基礎理解の拡充に取り組むとともに、その知見を踏まえた機能組織の構築と実際の医療応用研究を推進した。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域では、ナノスケールからマクロスケールまでの工学的操作を基盤とし、細胞の機能解明・制御を目的とする独創的な研究が進められた。チャレンジングなテーマ設定に対し、Nature,Scienceなどハイインパクトジャーナルへの論文発表を含む多くの優れた業績があげられている。工学、バイオ、医学の連携により、光ピンセット技術や器官再生など、医学、バイオエンジニアリング分野への具体的な貢献が認められる。若手研究者の育成に関しても成果があげられており、設定目標は十分達成されていると評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --