均一・不均一系触媒化学の概念融合による協奏機能触媒の創成(碇屋 隆雄)

研究領域名

均一・不均一系触媒化学の概念融合による協奏機能触媒の創成

研究期間

平成18年度~平成21年度

領域代表者

碇屋 隆雄(東京工業大学・大学院理工学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 高度文明を維持しつつ地球環境負荷を極力低減する科学・技術が強く求められる今日、「ものづくり」に役立つ触媒化学は、高度物質変換を支える学術基盤にとどまることなく、社会と融和した複合的かつ学際的な学術に生まれ変わる必要がある。本特定領域研究では、このような社会的要請に真摯に対応して解決策を提供することが現代の化学者に課せられた重大な使命である、との認識に立脚して、革新的学術・技術基盤の創出を目指した。そのために、これまで分子触媒、多金属触媒、固体触媒、および生体模倣触媒化学などの学術領域において個別に発展し、蓄積されてきたそれぞれの触媒化学の英知を、原子・分子レベルでの立体構造論、電子構造論や反応速度論の共通基盤に立ち返って融合することで創製される統一概念、すなわち「協奏機能触媒化学」の確立を第一の目的とした。
 さらに、本協奏機能触媒を活用した高効率分子変換システムによる、安全で環境に負荷をかけない次世代ものづくりの技術基盤の構築を第二の目的とした。これら目的を達成して社会の要請に適切に応えることが本領域研究の意義でもある。
 具体的には、金属−配位子の協同効果を組み込んだ分子触媒の高機能・高効率化を目標とする「分子機能触媒化学」、複数の金属の集積と協同作用によって生み出される「多金属機能触媒化学」、および分子・原子レベルで構造設計・制御された協奏機能を有する「固体機能触媒化学」に加えて、酵素を範とした実用的な人工触媒創製を行う「生体模倣機能触媒化学」の4研究項目を設定して、計画研究班と公募研究班が強固な連携のもとに研究推進できる体制を整えた。そのために、総括班はまず分野間の垣根を排除しつつ,領域内の組織的な共同研究を推進した。

(2)研究成果の概要

 本研究領域では、従来の研究の枠組みである均一系および不均一系触媒化学の研究者84名が、触媒化学における新たな共通概念の構築をめざして4年間集中的に研究推進した。その結果、原子、分子レベルでの深い考察と洞察に基づき精緻に設計された協奏効果を共通基盤とする概念的にも新しく実用性に優れた多くの均一系および不均一系触媒の開発に成功した。例えば、A01項目では、金属とともに配位子の構造変化を推進力とする概念的にも新しい協奏機能分子触媒の確立と、それを活用する高効率分子変換反応の開発、A02項目では、金属−金属間の協奏機能効果に基づく多金属触媒の開発とそれを用いる多様で原子効率に優れた精密分子変換システムの構築、A03項目では、金属あるいは配位子と固体表面間に生起される協奏効果により発現する固体協奏機能触媒による環境負荷低減型分子変換システムの確立、A04項目では、水素酸化還元酵素のモデル物質の構築と、水中での水との協奏効果による水素分子の不均等開裂への新たな反応機構の提言など多くの優れた成果が得られた。これらの実証を通して、協奏機能触媒化学が一般性の高い概念として認知・共有化され、新たな学術となることを提示できた。これらの成果は1882編を超す研究論文として報告され、国内外から高く評価されるとともに、988件に達する内外の招待講演につながった。特筆すべきことに、均一系、不均一系触媒研究者間の共同研究による触媒開発が積極的に進められ、多数の共同論文が発表された。また、本領域研究者が主体となり企画された、協奏機能分子触媒を主題とする成書“Chemistry of Bifunctional Molecular Catalysis”が出版される運びとなり、さらに、英国王立学会Dalton Transactions誌に「Bioinspired Catalysis」と題する特集号に生体模倣協奏機能触媒に関する優れた成果を発表して高い評価を得ている。一方、他学協会との共同シンポジウムを継続的に多数回企画実施することで周辺研究分野へ顕著な波及効果を与えたものと考えている。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域では、分子触媒や固体触媒、あるいは生体模倣型触媒など個別に発展してきた触媒化学を統一する概念を確立し、環境への負荷を最小限に抑えた分子変換技術の創製を目的として研究が進められた。極めて多くの論文が出され、それぞれの分野で研究業績をあげている。長い歴史を持つ触媒化学を更に発展させるためには均一、不均一触媒の概念の融合は必要不可欠であり、本研究領域が大きなきっかけになると期待される。若手研究者にも大きな刺激を与え、その育成についても十分な成果があげられている。また、有機金属化学、生物無機化学、固体化学など幅広い分野に大きな波及効果を与え、設定目標は十分に達成されていると評価できる。今後、協奏機能触媒の学問領域が広く認識されることが期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --