元素相乗系化合物の化学(宮浦 憲夫)

研究領域名

元素相乗系化合物の化学

研究期間

平成18年度~平成21年度

領域代表者

宮浦 憲夫(北海道大学・大学院工学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 現代の科学と科学技術の発展は、原子レベルで構造制御された機能性物質群の創製によるところが大きい。これは、複数の元素がある種の組成と配列あるいは空間配置に制御されたとき、元素間に様々な相互作用や協同効果が発現し、単独の元素では実現し得ない新たな機能が生まれるからである。平成9年度から実施された特定領域研究「インターエレメント結合の化学」(玉尾皓平)では、幅広い観点から遷移元素や典型元素の元素間結合が研究され、極めて困難であった高周期元素化合物が様々な組み合わせで合成できるようになった。従って、本特定領域研究では、以降およそ10年にわたり蓄積された実績をもとに機能重視の高周期元素化学を提案した。複数元素の相乗的な働きによって優れた機能を発現する分子性化合物やそれらの複合体を「元素相乗系化合物」と定義し、その学理と応用を追求することにより、真に独創的な機能性物質群の創造をめざす「複合型元素化学」である。特に、高周期元素を基盤とする分子性化合物は触媒化学や材料科学などと密接に関連して実用的であることから中心的研究課題とした。また、あらゆる「もの作り」の基盤となるこの分野における我が国の優位性を次世代に引き継ぐため、若手研究者を積極的に組入れて研究班を組織した。
 主要研究目的は以下の3点である。
 (A)高周期元素の組織化・複合化から生まれる元素相乗効果と新機能の開拓
 (B)元素化合物の高度利用を目指した機能重視の物質化学の推進
 (C)若手研究者の育成と学問の継承

(2)研究成果の概要

 本特定領域研究の目的を達成するために、物質機能の根源的要素である「元素相乗効果」と「高周期元素化学」をキーワードとして、多角的かつ多面的な観点から「元素化合物の高度利用を目指した機能重視の物質化学の推進」に取り組んだ。特筆される成果には、高配位典型元素化合物の化学、高周期典型元素多重結合の化学、dπ–pπ相互作用にもとづくπ共役系分子の化学、量子サイズ効果が期待される原子数百個以下の金属クラスターの化学、ナノワイヤーやナノシートを実現する金属核配列制御法の化学、金属多核錯体の化学における電子的性質や相乗効果に関する系統的研究、触媒反応の活性種として重要なIr–B、Ir–Si、Fe–C錯体など遷移金属―典型元素複合錯体の化学、ゲスト認識能を有する白金錯体、分子磁性体として有望な複核コバルト錯体や機械的刺激で発光する二核金錯体の化学、ニトロゲナーゼやチトクロム酸化酵素の活性部位を再現した生物無機化学などがある。これらの機能発現のメカニズムと応用研究により、これまで未踏領域であった高周期元素の特性や機能を重視した有機化学、無機化学、錯体化学、触媒化学、高分子化学、超分子化学、材料科学の発展に大きく貢献した。また公開シンポジウムや国際会議に加えて、若手主導による若手コロキウムや若手国際シンポジウムを実施し、関連分野の発展を促すと同時に多くの有為な若手研究者の人材育成に貢献した。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域では、複数元素の相乗効果による機能発現を基盤とする、独創的な機能性物質群の創製について研究が進められた。力量ある研究者によって形成され、質、量ともに申し分ない成果があげられている。数多くの新しい分子が創成され、元素相乗系という新しい学問分野の形成に大きな貢献を果たした。実用的な応用が考えられている成果も含まれており、関連する分野に大きな波及効果を与えたと言える。若手研究者の育成に関しても成果があげられており、本研究領域の設定目標は十分に達成されたと評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --