100テスラ領域の強磁場スピン科学(野尻 浩之)

研究領域名

100テスラ領域の強磁場スピン科学

研究期間

平成17年度~平成21年度

領域代表者

野尻 浩之(東北大学・金属材料研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 強磁場は、スピンと電子の軌道運動に直結する超精密制御の可能な外場であり、あらゆる物性研究に必要不可欠な先導的研究基盤である。本領域では、先端計測を軸として、未踏の100テスラ領域におけるスピン科学を推進する。研究の柱として、(1)スピンによる電子状態の制御、(2)強磁場により誘起される様々な相の起源の解明と制御原理の確立、(3)電子状態のプローブとしてのスピンの利用、の3つを掲げる。
 具体的には、100テスラ領域の強磁場下における超精密なミクロ物性計測、50テスラ強磁場放射光X線分光による電子状態の解明、50テスラ強磁場中性子散乱による強磁場下磁気相関決定、80テスラ級固体NMRによる機能材料および生体物質の機能研究、強磁場走査プローブ顕微鏡によるナノ空間スケールのスピン・電荷相関の解明、などの世界トップの先端計測を実現し、これにより物理、化学、生物にかかわる分野横断的なスピン科学を推進する。
 これらの目標が達成されることで、分野横断による新しい研究分野が創成され、強磁場スピン科学のフロンティアが未踏の100テスラ領域に広がる。特に、超強磁場下での電子状態・磁気状態のミクロな観測が可能になることで、超強磁場下で出現する特異な電子状態を直接的に精査することが可能になる。これにより、強磁場スピン科学の精密科学への質的な転換が達成され、物性科学の進歩に貢献する。

(2)研究成果の概要

 当領域では未踏の強磁場領域における最先端の強磁場下計測技術を実現することを通じて、多くの新研究手法を開拓され、分野横断的な強磁場スピン科学研究の推進がなされた。代表的成果として、強磁場分野とX線・中性子等の量子ビーム分野を結びつけることにより、新分野”超強磁場量子ビーム科学”を世界に先駆けて切り開き、超強磁場下の電子状態のミクロ計測や非自明な強磁場中磁気秩序決定など、これまでにない新しい実験手法を確立し、国際的に普及した。また、パルス磁場NMRや超強磁場走査プローブ顕微鏡など、独創的な実験技術開発により、新しい研究分野を形成するとともに、その技術的成果が他分野への波及効果をもたらした。これらの新手法を、磁場誘起価数転移系、マルチフェロイック物質、近藤半導体などに総合的に応用することで、未解明であった強磁場中の特異な状態の総合的な理解が可能になった。さらに、ヘム蛋白など生体物質の超強磁場ESRによる物性解明、金属錯体の磁場制御と評価、化学反応の磁場効果など、学際的な研究の展開が活発に図られた。これらの成果は、強磁場スピン科学のフロンティアを未踏の100テスラ領域に広げる道筋を確立し、超強磁場領域のスピン科学を精密科学へと転換させることにより、日本が世界の中で強磁場スピン科学領域における主導権を確保することに大きく貢献した。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域は、100テスラ級の超強磁場を実験科学における「外場」として活用する基盤技術や学理の構築を目的としたものである。5ヶ年の取り組みにより、量子ビームと超強磁場を組み合わせた超強磁場X線分光・中性子回折の手法や、走査プローブ顕微鏡にハイブリッドマグネットを組み込んだ超強磁場下での空間分解手法などを確立し、物性物理学のみならず、生命科学分野をも対象とする先駆的な研究へと展開した。これらの成果は原著論文等の学術的成果として結実しており、評価できるものである。今後は、本研究領域で培った技術や知見を活用して、新たな学術的成果へ発展させて欲しい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --