ナノリンク分子の電気伝導(川合 真紀)

研究領域名

ナノリンク分子の電気伝導

研究期間

平成17年度~平成21年度

領域代表者

川合 真紀(東京大学・大学院新領域創成科学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 電極に架橋した一つの分子にデバイス機能をもたせたとする研究を契機に、分子エレクトロニクス研究は、バルクや薄膜試料だけでなく、一つの分子を対象にする時代になってきた。このような単分子デバイスの実現には、金属電極に接合した分子系、すなわち、「ナノリンク分子」の電子輸送特性、原子配列や電子状態の関係、分子の構造・電子状態とデバイス特性の関係などを明らかにし、最適なナノリンク分子系を構築する必要がある。このような背景のもと、本領域では、物性物理学、合成化学、表面科学の融合により「1分子エレクトロニクス研究」に新たな指導原理の確立を目指し、(1)走査トンネル顕微鏡/トンネル分光や微細加工により作製した固定電極を用いたナノリンク分子の電子輸送特性の解明、(2)放射光光電子分光やレーザー分光法による輸送特性を決定する分子・電極接合部の局所電子状態やキャリアダイナミクスの解明、(3)表面反応や電気化学反応による分子-電極接合系の構造と電子状態の精密制御法の開拓、(4)π共役分子系や金属錯体型超分子など新規ナノリンク分子の創製と電極への固定化法の開発、(5)大規模第一原理計算による分子-電極系の構造・電子状態の解明と非平衡開放系の理論による電子輸送過程における多体効果の解析、を目的に研究を推進した。

(2)研究成果の概要

 ナノリンク分子の輸送特性や局所電子状態の計測と第一原理計算をベースとした理論構築について大きな進歩を達成し、精密な計測と理論の共奏を実現した。ナノリンク分子の接点状態について、種々の分子に対する系統的なコンダクタンス計測と電子状態評価により、分子-金属電極の接点として主流であった金-チオール結合では、電子状態が原子付近に局在しているため高いコンダクタンスが得られないこと、これに代わる新規な接合構造としてイソシアナートやカルベーンなどが高いコンダクタンスを得られること、を明らかにした。非弾性電子伝導分光や非弾性トンネル分光における電子-分子振動カップリングについて、実験と理論の定量的な比較から励起メカニズムの詳細が明らかとなった。また、振動励起状態の緩和に伴うナノリンク分子の運動を検出するアクションスペクトル法を新規振動分光法として確立した。さらに、非弾性トンネル分光により単分子のスピン励起の検出に成功し分子スピントロニクスに繋がる成果を得た。二次元有機薄膜のFET機能探索について、有機分子の単結晶薄膜を用いることにより、電子の移動度を大幅に向上できることを示した。また、絶縁体-有機薄膜界面の制御により界面特性を格段に向上させ、両極性トランジスタや光るトランジスタを実現した。さらに、電界キャリアドーピングによる無機半導体の超伝導転移の実現にも成功した。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域では、究極の分子エレクトロニクスとして単分子デバイスの実現を目指して、分子と金属電極の接点を含んだナノリンク系の基礎学理の構築と設計・合成研究を展開してきた。特に、局所プローブ分光等の最先端の分光法や、分子-電極界面の精密制御法など、新たな研究手法の開発によって世界をリードする成果をあげた点は、ナノテクノロジー・ナノサイエンスの基礎学理に貢献したものとして高く評価できる。
 また、測定、合成、理論のグループが協力して、ナノリンク系の物性測定、局所電子状態やスピン検出などに於いて、顕著で波及効果の大きい研究成果を多数発表した点も優れており、学問領域の形成がなされたと考えられる。
 以上のことから、本研究領域は設定目的に照らして、十分な成果があったと判断する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --