ヒッグス粒子と超対称性の発見が切り拓く21世紀の素粒子物理学(駒宮 幸男)

研究領域名

ヒッグス粒子と超対称性の発見が切り拓く21世紀の素粒子物理学

研究期間

平成16年度~平成21年度

領域代表者

駒宮 幸男(東京大学・大学院理学系研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本研究領域の目的は、ヒッグス粒子と超対称性の発見を目指し、それを通して標準理論を超える新しい素粒子物理学研究の方向性を確立することである。TeV(テラ電子ボルト)領域の物理を直接探ることができる世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突型加速器LHC(ジュネーブ、CERN)を用いたATLAS実験と、世界最高強度のミューオンビームを用いたMEG実験(チューリッヒ郊外、PSI)の2つを主柱とし、関連する理論研究者を日本全国から結集して領域を形成した。本領域は、標準理論を超えた新しい現象を発見してその本質を研究できる実験と、これに深く関わる理論研究を有機的に結びつけて素粒子物理学の飛躍的発展を目指すものであり、超高エネルギーでの新しい物理原理に総合的に迫る初めての試みである。
  本研究の意義は、標準理論を超えた新たな素粒子物理学の方向性を見通すところにある。ヒッグス粒子の発見は、ヒッグス場の真空凝縮による対称性の自発的破れ(南部理論)を通して、素粒子の質量の起源の解明につながる。超対称性はフェルミ粒子とボーズ粒子を結びつけ、時空とも密接に関係しており、その発見は科学史上「反粒子」の発見に匹敵する。超対称粒子のうち最も軽いものは宇宙の暗黒物質の有力候補であり、その研究は宇宙論の発展に決定的である。さらにMEG実験の目指すμ→eγ稀崩壊の発見と併せることにより、総合的な超対称大統一理論の検証も視野に入っている。

(2)研究成果の概要

 ATLAS実験は、予定通りミューオントリガー検出器とシリコン飛跡検出器を完成させてコミッショニングに成功した。また、ヒッグス粒子と超対称性の探索に関わる物理解析では、実験グループの主軸となって準備研究を行い、重要な成果を上げてきた。これらの成果は国際会議や論文で発表し、国際的に高い評価を得ている。残念ながらLHC加速器の稼働開始が大幅に遅れたため、予定していた物理解析に必要なデータ量がまだ得られていないが、2009年暮れの稼働開始と同時に測定器は期待通りの性能を発揮し、最初から質の高い物理データを得ることができた。物理解析においても、実際のデータを使った検証作業などが本領域の研究者を中核にして進められている。これによって、必要なデータ量が得られればすぐにでも、目的とする標準理論を超える新しい素粒子現象の発見が可能な状況となっている。一方MEG実験は、2007年末に実験装置を完成させてパイロット運転を行い、2008年秋からμ→eγ崩壊探索のためのデータ収集を開始した。2008~2009年のデータは、既に以前の実験を2倍超える物理感度を達成しており、今後いつ発見があってもおかしくない。2009年、2010年と続けて主要な国際会議に招待されて研究成果を発表し、国際的に注目と期待を集めている。理論研究グループは、超弦理論、新しいタイプの超対称性の破れの機構、余次元模型などの幅広い研究を行ない、宇宙論・フレーバー物理・コライダーでの高エネルギーフロンティアの物理の関連という観点から研究が精力的に行なわれている。ATLAS実験・MEG実験ともに実験が進行し、いよいよ標準理論を越える新粒子や新現象の発見の時機が迫っている。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、十分な成果があった)

 本研究領域では、ヒッグス粒子、超対称性の発見を目的にATLAS実験及びMEG実験の推進を目指したが、LHC加速器の事故によりATLAS実験に遅れが生じたことは残念である。しかし、検出器が予定通り完成したことは、ヒッグス粒子の発見能力の向上と超対称性粒子の発見方法の確立という観点で高く評価できる。MEG実験や理論研究を含めて、約300編の論文が発表され、研究領域の設定目的に照らして十分な成果があったと考えられる。研究協力体制の構築や若手の人材育成においても着実な進展があったと判断される。
 しかし、本来の国際共同研究の成果はまだ十分に得られていないので、今後の実験の進行による成果に期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --