21世紀におけるわが国の国際取引関係法の透明化と充実化-Doing Cross-Border Business with/in Japanのために(河野 俊行)

研究領域名

21世紀におけるわが国の国際取引関係法の透明化と充実化-Doing Cross-Border Business with/in Japanのために

研究期間

平成16年度~平成21年度

領域代表者

河野 俊行(九州大学・大学院法学研究院・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 日本法に関する情報は、対外的に十分な形では発信されておらず、外から見た場合に日本はブラックボックス化しており、このことが日本のいわばカントリーリスクとなっている。かかる基本認識に基づき本領域はスタートした。わが国の最重要政策の一つである海外からの投資を促進するためには、法的リスクの計算を可能とする情報が必要である。そのためには、近時成立した国際取引に関係する諸法のみならず、その背景を形成してきた判例法、学説を見渡す情報が対外的に発信されなければならない。それは、法律条文だけではなく、法律の注釈、関連する判例の紹介等まで含むものでなければならない。このような法の有機的な形を明らかにして始めて、国際取引に必要な法の全体と細部がわかるようになる。かかる必要性に応じるためには、ひとつの法分野のみを個別的に取り上げたのでは不十分であり、国際取引関係法を横断的に視野に入れて行動を起こさなければならない。それには複数の研究項目について同時に計画研究をたてて遂行できる特定領域を設定することが必要となる。本領域では、1検索機能も併せ持った独自のウエブサイトから日本法を体系的に発信すること、2そのためのインフラ整備の基礎条件を明らかにし、それを試行すること、3これらを通じて「外から日本法を見る」という比較法の視点を獲得し、それにもとづく学術的成果を公表すること、4適切な場合には立法論を策定し提言すること、を目的とする。

(2)研究成果の概要

 国際会社法、国際物品サービス取引法、国際金融法、国際知的財産法、国際倒産法、国際仲裁法、国際民事訴訟法に、国際私法・国際公法をも加えた8分野のサイトから構成される本領域のウエブサイト(http://www.tomeika.jur.kyushu-u.ac.jp/)を作成し、1001の日本判例を選択し、英訳してアップするとともに、各分野の解説を書き下ろして判例とハイパーリンクして、重要と思われる論文とともに各分野のページにアップしている。現在では”Japanese law”でグーグル検索するとほほ最上位でヒットするようになった。また本領域のサイトは、法務省主管の法令外国法翻訳プロジェクトのサイトにInternational Business Law in Japan(Case Law and the Outlines of 8 important fields)として、またニューサウスウエールズ大学・シドニー工科大学主催のAsian Legal Information Institute(http://www.asianlii.org/)にもリンクされて、グローバルユーザーに提供されている。
 各分野の個別研究の成果を総合すると、論文数492、内外での学会等での発表数86、編著書数21となった。また各分野横断的に「外から」見る日本法という観点からの比較法分析のためのシンポジウムを、総括班の主催のもとで東京及びハンブルグにおいて4回企画開催し、日本語または英語で公表した。立法提言については、立法作業に対するパブリックコメント、立法段階での問題提起、海外の研究機関との日英両語による立法案の共同出版など、様々な形で提案を行った。本領域の活動の総括的な報告については、International Law Association日本支部のJapanese Yearbook of International Law(2010)で特集として取り上げられ、各分野からの論文計6本の掲載が決まっている。

審査部会における評価結果及び所見

B (研究領域の設定目的に照らして、十分ではなかったが一応の成果があった)

 本研究領域では、1001件におよぶ日本の判例と国際取引関係法関連分野の解説を英文に翻訳・データベース化し、検索機能を持つウェブサイトで公開したことで、日本法に関する情報を海外に向けて発信するインフラを整備した。このことは法学研究の基盤を提供したという意味で国際的な貢献度も高く、一定の成果として評価できる。ただし海外から見て日本法が実際に理解しやすくなったか、利用しやすくなったかに関するデータの提示がなく、日本法の透明化と体系化が果たされたかどうかの検証が十分であるとは言えない。また判例の翻訳により日本法の透明化や比較法に関する研究水準が向上し、新たな学術的成果が得られたかどうかに関してもやや疑問が残るという意見もある。今後は整備したデータベースの価値を維持するためのアップデートと共に、更なる学術的研究の推進が期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --