生殖系列の世代サイクルとエピゲノムネットワーク(佐々木 裕之)

研究領域名

生殖系列の世代サイクルとエピゲノムネットワーク

研究期間

平成19 年度~平成24 年度

領域代表者

佐々木 裕之(九州大学・生体防御医学研究所・ゲノム機能制御学部門・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 生殖細胞系列は次世代へゲノムを伝達する重要な役割を果たす。本研究領域では哺乳動物の生殖細胞系列の世代サイクルが回転するしくみを理解し、その過程で起こる核機能のリプログラミングの実体解明を目指しており、そのための重要な切り口としてエピゲノム調節のネットワークについての研究を推進している。近年の研究により、生殖細胞系列のエピゲノム状態がダイナミックに変化し、細胞核のリプログラミングやゲノムインプリンティングのみならず、生殖細胞系列への運命決定や減数分裂の進行など世代サイクルの回転そのものにも重要な役割を果たすことが分かってきた。また、エピゲノムの実体であるゲノムDNAのメチル化やヒストン蛋白質の修飾はネットワークを形成して相互に影響しあっているが、小分子RNAとの関連も喫緊の課題として浮かび上がってきた。そこで本研究領域では、生殖細胞系列・初期胚におけるエピゲノム調節を主要な標的に据えて、生殖細胞研究者、発生工学研究者、エピジェネティクス研究者らが一堂に会して緊密に連携して研究する体制を整えた。多能性幹細胞からの生殖細胞の誘導、リプリグラミング効率の改善などの実用面を見据えた研究も行う。本研究の成果は幅広い波及効果をもつと考えられ、たとえば幹細胞生物学や再生医療の発展、不妊・流産・先天異常の解明、クローン技術をはじめとする発生工学技術の向上、生殖補助医療の改善などへの大きな貢献が期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 上記の目的を達成するため、研究項目A01「生殖系列の分化決定機構」、A02「配偶子形成・減数分裂とエピゲノムネットワーク」、およびA03「受精・初期胚におけるエピゲノム変化と発生能」を設定し、これに関わる国内の主要な計画研究者15名と若手を主体とする公募研究者25名を組織し、その緻密な連携によって効率的重点的な研究を推進してきた。A01においては、無血清培地を用いてエピブラストから始原生殖細胞(PGC)を誘導することに初めて成功し、新たな生殖細胞分化因子の発見へ繋げるなどの世界をリードする成果があった。A02でも、マウス卵子において哺乳類初となる内在性siRNAの発見とその生成・作用機序の解明、雄性生殖細胞におけるpiRNAの生合成とDNAメチル化のクロストークの発見などのランドマーク的な成果があり、ヒストン修飾を含めたエピゲノム制御のネットワークが明らかになりつつある。A03では、卵子細胞質内の初期化因子の特性解明と、クラスIIbヒストン脱アセチル化酵素を阻害することが核の初期化に重要であることなどの発見があり、実用面でインパクトのある成果が出ている。これらの成果はCell誌、Nature誌を含む国際学術誌に領域発足以来3年間で119編の原著論文として公表されている。特筆すべきは全原著論文の28.9%が領域内共同研究から生まれていることで、多様な研究者が一体となって研究を推進する特定領域研究の意義を実現している。この間、2回の公開シンポジウムと特定領域研究「性分化」との合同領域会議の開催により成果公表と研究者コミュニティーとの交流に努め、2回の若手勉強会(自主企画)を支援したほか、英語版ホームページを開設して海外へも発信を行っている。

審査部会における評価結果及び所見

A (現行のまま推進すればよい)

 本研究領域は、哺乳動物の生殖細胞系列の世代サイクルが回転する仕組みを理解し、その過程で起こる核機能のリプログラミングの実態解明を目指すものである。領域全体としては、これまでのところ目的に向けて順調に研究を進展させている。即ち、研究者間の緻密な連携によって、エピブラストからの始原生殖細胞の誘導、新たな生殖細胞分化因子の発見、卵子において哺乳類初となる生殖細胞の内在性siRNAを発見するなど、当該分野におけるランドマーク的な成果をあげている。また、領域の計画研究や公募研究のなかで代表者、分担者として参画している若手研究者が責任著者として発表している論文もみられ、若手育成の施策が結実しつつある。領域全体の運営に関して、各年度に公開シンポジウムを開催し、また研究領域メンバーのみならず広く研究者コミュニティーに向け研究成果の公表に努めていることは、評価できる。
 一方で、本領域が医学への貢献を目指すと謳っている以上、ヒトでの生殖医療への応用を目指す観点からの取り組みがより望まれるといった意見や、生殖系列の世代サイクルの全体をエピゲノムの変化(ダイナミズム)という視点で、概観することが必要ではないかとの意見があった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --