植物メリステムと器官の発生を支える情報統御系(町田 泰則)

研究領域名

植物メリステムと器官の発生を支える情報統御系

研究期間

平成19 年度~平成24 年度

領域代表者

町田 泰則(名古屋大学・大学院理学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 なぜ花が咲くのか、どのような仕組みにより一粒の種から葉・茎・根をもつ植物が作られるのか、などの疑問に答えるのが、私たちの特定領域研究の目的です。植物の生命活動は、多くの遺伝子や蛋白質の働きによって支えられています。昔から、花が咲くのは、葉で作られるフロリゲンと呼ばれる物質の働きによると考えられてきました。私たちの研究班には、数年前に、このフロリゲンの遺伝子を発見した班員がいます。今回の特定領域研究では、この遺伝子が花を咲かせるために何をしているのかを研究しています。また、植物の葉は扁平で、根は棒状ですが、種の中にはこのような構造をした器官はありません。種の中には「メリステム」と呼ばれている(動物のES細胞のような)幹細胞集団があり、葉は地上部を作る「メリステム」から、根は地下部を作る「メリステム」から生まれてきます。私たちの特定領域研究では、植物の成長過程で、どのようにしてこのようなメリステムが維持されているのか、またどのようにしてメリステムから葉や根などの器官が形成されるのか、それに関わっている遺伝子やタンパク質はどんな分子で、何をしているのかを研究しています。私たちは、ゲノム解析が進んでいるシロイヌナズナやイネなどを用いて、これらの問題を研究します。これらの研究成果により、植物に関する多くの謎が解明されるだけでなく、人類と動物のパートナーである植物の生命力(植物力)を維持・発展させ、生命にとってふさわしい地球環境の維持・改善のための新たな方途が見えてくると期待しています。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 葉は、構造的に見ると、基部から先端部へ向かう方向性と表裏があり、さらに左右相称であるという特徴をしています。葉はメリステムから生まれますが、誕生した直後の葉にはこのような特徴は見られず、それは、メリステムの中心から放出されている未同定の物質の作用により生まれると考えられています。今回の研究により、その物質の実体についての手がかりが得られようとしています。さらに、この物質の支配下で葉の形成を制御している仕組みも解明されつつあります。一方、根は、水平方向の断面と見ると、細胞層が放射パターンをしています。また、主根の腋にできる側根は、主根の内側の細胞から生まれます。我々の研究により、根のパターン形成や側根形成には、驚いたことには、葉の形成に関わっているものと同じ仲間の分子が、似たような順番で働いている可能性がでてきました。一方、花を咲かせるフロリゲンは葉で作られ、花が作られる場所へ運ばれます。この時、フロリゲン遺伝子のメッセンジャーRNAが動くと報告されていましたが、我々の研究により、タンパク質であることが証明されました。そして、移動した先で複数のタンパク質と結合して花形成を刺激していることが明らかにされようとしています。さらに、独創的な方法により、ペプチド性シグナル分子とその受容体によるメリステムの維持や器官分化に関わる新しい仕組みも発見されました。今後は、以上のような結果に基づいた作業仮説や新しい仕組みを一層確かなものにして、植物の組織や器官が生まれる仕組みの全体像にせまりたいと考えています。この間の成果の一部は、373編の原著論文として発表され、多くの新聞などにも報道されました。さらに、成果の多くが、班員間の共同研究の結果であることも、特質すべきことでしょう。

審査部会における評価結果及び所見

A (現行のまま推進すればよい)

 本研究領域は、植物の発生をコントロールしている新奇な情報分子や制御分子を基軸として研究し、植物の発生に関する未知の統御系とその作動原理を解明することを通じ、新たな研究領域を開拓し、我が国の研究レベルを世界のフロントに押し上げることを目指すものである。即ち、植物の発生を統合的に理解するため、植物発生の根幹をなすメリステムに焦点をあて、メリステムの形成とメリステムからの器官形成の制御について集中的に研究する意欲的な取組である。新規なペプチド性ホルモン類の同定や、異なる組織のメリステムの分化に類似の転写因子のモジュールが関わるという新規概念の提唱など、十分な成果をあげている。当該領域における世界トップクラスの研究者がリードしつつ、若手研究者の育成もバランスよく進められており、発表論文の質・量ともに評価できる。また支援班が有効に機能しており、領域全体での連携がとれており、特に若手研究者の連携が進んでいるなど、将来性が期待できる点が高く評価できる。また、分化全能性に関する成果も今後期待される。
 一方で、全体として成果は出ているものの、論文業績がやや不十分な研究チームもあるとの指摘があった。また、ライブセル・イメージングの技術開発とタンパク質の発生学的機能の融合研究を推進すべきという意見、より一層の異分野(イメージングなど)の人材の導入を期待するといった意見があった。更に、今後は全体のシステムの制御に関する研究についても検討が必要であるとの意見もあった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --