東アジアにおけるエアロゾルの植物・人間系へのインパクト(畠山 史郎)

研究領域名

東アジアにおけるエアロゾルの植物・人間系へのインパクト

研究期間

平成20 年度~平成24 年度

領域代表者

畠山 史郎(東京農工大学・大学院農学研究院・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 東アジア地域における急速な経済発展は、石炭・石油を中心とするエネルギー大量消費を伴い、排出される多量の二酸化炭素やNOx、SO2等の酸性ガス、粒子状物質は、発生源近傍はもとより、周辺国への広域越境汚染、さらには北半球全体にも及ぶ広がりをもって、気候変動にも影響するなど、地域規模~地球規模の大気環境問題の顕在化につながっている。本研究領域は、このような東アジア由来のエアロゾルの環境影響を解明しようとするものであり、特にエアロゾルの物理・化学的な研究と、エアロゾル植物影響、エアロゾルの健康影響の研究を同時に進め、エアロゾルに関わる従来の枠組みを超えた新たな学術領域の創成を目指している。
 これまで、東アジアにおけるエアロゾル汚染の現状と機構解明と様々な大気汚染物質の植物や健康への影響はそれぞれ独立に研究が進められてきた。そのため、種々のフィールド観測のデータも地球科学的には非常に興味があり、意義深いものであっても、影響の研究に有効に活用されてきたとは言い難い。一方、植物や健康影響に関連して多くの大気汚染物質や粒子状物質の曝露実験が行われてきたが、ローカルな汚染をターゲットにしたものが中心で、広域の汚染を意識したものは限られていた。このような分野の研究者が連携を深めて研究を進めることにより、異分野間の関係をより密接なものとすることに貢献し、この分野の学術水準の向上・強化に資することができる。

(2)研究成果の概要

 本研究領域では、エアロゾルの物理・化学に関する研究と、植物および人間の健康への影響の解明を目指して研究を進めている。物理・化学分野では、気相粒子の生成反応や、半揮発性有機化合物の不均一反応確率などの研究を進め、また九州西部と西方海上における航空機および地上観測により、大陸由来のエアロゾルやその前駆体の輸送・分布・変質を調べた。データは健康影響研究班にも提供され、データの共有・活用が図られている。社会科学分野では、アジア国際産業連関表の日米およびアジアの76経済部門別に黒色炭素及び有機炭素粒子排出量を推計し、経済波及効果を考慮した間接排出量を求めた。一方、植物影響については平成21,22年度のターゲットとして黒色炭素の影響を選び、黒色炭素エアロゾル発生装置を開発してチャンバー内での植物への暴露を行い、影響の解明を進めるとともに、葉面に付着した炭素粒子の走査電子顕微鏡による解析を行って葉表面に存在する様々な粒子の解析が可能であることを見出した。東京農工大学の実験林内に観測タワーを建てて乾性沈着に関する測定手法の開発などを行うとともに、国内やタイの森林内でフィールドにおいて黒色炭素の沈着を測定する手法の検討を行った。
 また健康影響については、九州北部などの死亡または発症のデータを用い、エアロゾルとの関連性を調べた。さらに動物・細胞へのエアロゾル暴露実験、黄砂とスギ花粉の関係に関する研究を進めた。

審査部会における評価結果及び所見

B (研究領域の設定目的に照らして研究が遅れており、今後一層の努力が必要である)

 本研究領域は、異なる分野の研究者が、エアロゾル、特にブラックカーボンと黄砂に着目して、粒子の形成、成長の物理・化学的解析を目指したプロセス・スタディと、植物・人体への影響に関するインパクト・スタディを並行して進める斬新な試みである。
 プロセス・スタディでは、対流圏でのイベントを模した低温低圧条件での二次粒子形成の促進や、紫外線による粒子核形成の促進効果を見出すなど、これまでになかった知見が蓄積されつつある。
 その一方で、東アジアの越境汚染の主な発生源と考えられる中国の自発的排出抑制を促すようなマネジメント・スタディの推進や、中国の研究者を含めた共同研究・国際交流および他省庁の関連研究を行うグループとの連携の強化が必要ではないかとの意見があった。また、多様なエアロゾルの実態・プロセスや生体への影響を系統的に研究する上で、必ずしもそれぞれの研究グループが有機的に連携しているとはいえず、研究対象の絞込み、それに適合する研究計画の明確化、および研究組織の最適化が必要ではないか、との意見があった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --