配偶子幹細胞制御機構(吉田 松生)

研究領域名

配偶子幹細胞制御機構

研究期間

平成20 年度~平成24 年度

領域代表者

吉田 松生(基礎生物学研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 次世代を産む配偶子を連続して作ることは、動物にとって根源的な生命機能である。これは、配偶子幹細胞(Gamete Stem Cell:GSC)の自己複製と分化が、ニッチと呼ばれる特別な微小環境でバランスよく制御されることにより保証される。しかし、GSC/ニッチ・システムについて動物種横断的に統合的に理解しようとする研究は、必ずしも進展してこなかった。GSCは数が少なく同定や操作が困難なこと、GSC研究者が多くの分野に分かれてきたこと、が大きな理由であった。本研究領域は、マウスのGSC/ニッチ・システムについて重要な知見が得られ、研究が先行しているショウジョウバエとの実質的な比較が実現して来た機運を捉え、マウスやショウジョウバエ、魚類などのGSC研究を牽引して来た研究者らにより発足した。
 本研究領域の目標は、配偶子幹細胞/ニッチ・システムを動物種横断的に解析し、基本となるプログラムを解明すると共に、季節性繁殖や有性/無性生殖の転換など生殖戦略に基づく制御機構を明らかにすることである。その結果、確実に子孫を残すため、必要な時に必要な数の卵子や精子を作るメカニズムが解明される。さらに、GSCを人為的に操作し医学的・水産学的応用に資することを視野に入れた研究を推進している。また、動物学・発生学・水産学・医学といった多彩なバックグラウンドを持つ研究者が参画し、既存の領域を横断する新たな研究領域を創出していることも特徴である。

(2)研究成果の概要

 前半期、研究は順調に進展し、上記の目的に向けていくつかの重要な成果を得た。マウスでは従来の仮説では分化したと考えられていた細胞が幹細胞に戻ることの発見、ショウジョウバエではGSC/ニッチの場を制御する分子機構の発見、魚類では卵原細胞が精巣微小環境では精子幹細胞へ転換することの発見(ニジマス)や、今まで未知であった雌雄のGSCとニッチの同定(メダカ)といった成果が特筆され、国際的に高い評価を受けている。また、領域会議での議論などを通して領域内の連携が深まっており、後半期に向けて更なる研究成果が得られることが期待される。応用を指向した研究としては、GSCをターゲットとした新規不妊治療の開発に向けた基礎医学的研究や、クロマグロなど有用魚種の配偶子を他魚種生殖腺内で精子や卵子に分化させる新規技術につながる水産学的研究が進行しており、今後の発展が期待される。
 これらの研究活動の結果、GSC/ニッチ・システムに対する理解を格段に深めることが出来た。研究成果はホームページやシンポジウム、和文総説誌の特集などを通して広く発信しており、従来一つの研究領域としてまとまってはいなかった「配偶子幹細胞制御機構」研究領域を、明確に打ち出すという目標は達成されつつある。後半期、周辺領域の研究者との連携を深めることによって、本領域が新しい学術領域として成熟することを期待する。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

 本研究領域は、配偶子幹細胞とそのニッチシステムについて、各種生物を用いた研究を実施し、その基本プログラムならびに種毎の修飾・制御機構を解明することを目指し、さらに水産学や医学への応用をも視野に入れている。
 本研究領域における配偶子幹細胞分化の可逆性、微小環境による幹細胞の性別転換などの研究成果の質の高さは特筆される。このような研究成果をもとに、絶滅危惧魚類の保護といった応用研究へと着実に展開している点や、若手研究者を十分登用しているという点も評価できる。
 今後、幹細胞・ニッチシステムについて、さらなる分子レベルの研究を推進することによって、現在までに発見された興味深い観察事実のメカニズムに踏み込むような研究への展開と、より実用的な分野への展開を期待する。
 また、研究領域内での共同研究を一層促進することにより、新しい展開が生まれることも期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --