分子ナノシステムの創発化学(川合 知二)

研究領域名

分子ナノシステムの創発化学

研究期間

平成20 年度~平成24 年度

領域代表者

川合 知二(大阪大学・産業科学研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 「創発」とは部分の単純な総和にとどまらない性質が全体として現れる現象である。巨大かつ複雑な構造を有するナノシステムの構築と機能化を目指すビルドアップ型ナノサイエンスにおいて、従来の自己集合や準平衡状態での結晶成長を超えた、分子システムの自己階層化や自己機能化を導く方法論の確立が求められている。本領域では、高度な分子プログラミングや非平衡科学に基づいた分子レベルの創発を探求し、それを基盤とした新規な物質・機能・ナノシステムの創成を「創発化学」と位置づけて、その学理の追求と応用技術への展開を推進することを目的とする。
 「創発」という言葉には、生命を強く意識した含みがある。本領域を構成する多くの研究にも、生命に学び、あるいは生命を模倣するという方向がある。本領域は、生命科学ではないが、生物に近づくような柔軟かつ高次の構造や機能を目指し、システムとして構成され、働く物質科学を目指している。本領域は、従来の静的な化学から非平衡開放系を積極的に取り入れた、より動的な化学へ向かう新しい学術領域を創造する意義がある。
 本領域は、「創発」という高い普遍性を持った概念により、非常に幅広い分野の研究者により構成されていることが大きな特色である。この新学術領域が無ければ出会うこともなかった研究者同士が、「創発」という概念を共有することで共同研究が可能になり、そこから事前には予想できなかった新しい成果が生まれつつある。本領域の設定には、狭義の化学分野のみならず、分子レベルの創発に関わる多くの分野融合的研究を生み出す点で大きな意義がある。

(2)研究成果の概要

 本領域では、従来の静的な自己集合を越えて、非平衡開放系における時間・空間の自己組織化の原理を取り入れた。高次な組織体や機能の創発を目指して、新しい学術領域「創発化学」の学理を構築するために、物理と化学を融合して生命機能にも学びつつ研究を展開した。その成果として、初期条件による巨大多成分生成物の排他的経路選択(A02)、微視的立体化学による巨視的モルフォロジー制御(A03)など、分子系における非平衡開放系の特徴を示す創発現象を発見した。さらに、動的非平衡プロセスによる酸化物ナノワイヤー成長(A01)、タンパク質ネットワークを用いた非平衡単電子システムによる確率共鳴動作(A04)など、材料・システムの構造・機能創発に成功した。
 本領域の方向は、総括班評価グループから、「生命機能にも繋がる挑戦的な研究(茅評価委員長)」「化学と物理を融合する研究を展開するなら、本領域研究は歴史に成果を残すようなレベルに発展する(吉川評価委員)」など、高い評価を受けている。本領域は新学術領域に相応しく、物質創成、自己組織化、分子化学における我が国の学術水準の向上・強化に寄与するプロジェクトとして、順調に成果を上げている。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

 本研究領域は、従来からの分子の自己組織化よりも一段高い化学を目指し、非平衡科学、バイオ、ナノ科学などの研究分野を融合しながら研究を推進することで、分子集合による新規な機能の創生において大きな発展を遂げつつある。
 領域代表者のリーダーシップの下で、公募研究によるグループも含めた研究組織内の良好な連携が保たれおり、既に著名な学術雑誌に研究成果が発表されるなど、極めてレベルの高い研究成果が数多く得られている。今後もさらに研究組織の融合を図りながら研究を進展させ、より明確に新学術領域を創成することを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --