海底下の大河:地球規模の海洋地殻中の移流と生物地球化学作用(浦辺 徹郎)

研究領域名

海底下の大河:地球規模の海洋地殻中の移流と生物地球化学作用

研究期間

平成20 年度~平成24 年度

領域代表者

浦辺 徹郎(東京大学・大学院理学系研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 海洋地殻中の熱水・冷湧水の循環「海底下の大河」は、陸上河川の総量に匹敵する流量があり、地球の物質循環に大きな影響を与えている。一方、地球最大の生命圏である海底下生物群集にとっての一次生産者たる化学合成微生物は、イオウ、水素、メタン、鉄などの還元物質をエネルギー源として利用する。これらの主要な4還元的化学成分を供給する「海底下の大河」の地質学的存在様式が、その流域や河口域に生息する(微)生物生態系を規定し、大河流域の総和が現在の地下生物圏の全貌であると考えることができる。本領域では主要な還元化学成分別に大河を4種に大別し、それぞれが最も典型的に観察される南部マリアナ、沖縄トラフ、インド洋海嶺3重点の大河を対象に、掘削船「ちきゅう」や海底設置型掘削装置(BMS)を用いた大河流域の直接掘削、潜水艇を用いた大河河口域の試料採取、試料の化学的・微生物学的解析、大河流域や河口域の地球物理学的観測や海洋学的観測、大河環境を再現する室内実験を通じ、「海底下の大河」と生命と地球表層環境の時空間的多面相互作用の解明を目的とする。本領域の研究により、海底下生命圏・地球最古の生態系・地球外生命のあり方など惑星固体環境中生命科学の新たな展開が期待される。

(2)研究成果の概要

 平成21—22年度で、対象として設定した3つの海域(沖縄トラフ、南部マリアナ、インド洋)において、計17回(平成22年度後半予定も含む)の研究航海を実施するなど、予定以上の進捗をあげることができた。航海では、海底設置型掘削装置(BMS)による「無菌」掘削を通じた「大河」流域生命圏への直接アプローチ、自律型無人探査機(AUV)「うらしま」による地球物理・化学・微生物高精度マッピング、現場トレーサー培養装置や現場観測機器の開発と実地運用を行い、世界をリードする大河観測プラットフォームを構築し、従来技術による調査研究とは一線を画する調査結果が得られつつある。また、中央インド洋海嶺において、新たな水素の大河のモデルとなりうる特徴的な熱水活動域を含む2つの熱水活動域を発見した。
 世界初の室内実験装置を用いて、地震発生時の岩石破壊による水素生成を測定し、断層活動による水素の大河形成の可能性を提示した。また、熱水性鉱物試料に対する新たな年代測定法や熱水域固有種を用いた年代推定のための新たな遺伝子マーカーを開発し、熱水域固有種から軟体動物の100 年ぶりの新発見となる新しい幼生タイプを見出した。
 本研究領域の研究航海は、総括班で綿密に相談し、首席研究者にできるだけ若手を充て、かつ必ず異分野融合となるよう計画・実施した。これに加え、若手研究者の発案により国内留学制度T-MORE を設立し、運用を開始した。これらを通じて、若手研究者や大学院生が、さまざまな他分野の研究を実地に体験し、分野間の考え方や言葉使いの違いを乗り越え、相互にアイデア・試料・分析データを交換することを学んでいる。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

 本研究領域は、南部マリアナ、沖縄トラフ、インド洋海嶺の大河を対象に、予定を上回る回数の調査航海を実施し、新開発の現場分析・現場培養技術を用い、大河領域の直接掘削による従来にないデータの取得、新たな熱水活動地域や軟体動物の幼生タイプの発見など、新たな知見を重ねている点が高く評価できる。また、独自の国内留学制度を設け、若手研究者の育成にあたっている点も評価できる。
 今後も研究領域および若手研究者育成の進展が期待されるが、最適な方針の構築のために総括班評価者等をおくべきであるといった意見もあった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --