素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明(青木 慎也)

研究領域名

素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明

研究期間

平成20 年度~平成24 年度

領域代表者

青木 慎也(筑波大学・大学院数理物質科学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本領域の目的は、量子色力学(QCD)の真空構造とクォーク力学の研究から始まり、クォークの力学と核力、核力と原子核構造、原子核構造と超新星爆発などの爆発的天体現象、爆発的天体現象と元素合成、などいろいろな階層の重層的な物質構造を、素粒子・原子核・宇宙の研究者が計算科学的技法を駆使しスーパーコンピュータを最大限活用しながら共同で研究し、物質階層縦断的かつ分野融合型の新しい研究領域を構築することである。具体的には、(1)格子QCD の数値シミュレーションによるQCD の真空構造やハドロンの性質の精密決定(2)格子QCD 計算によるバリオン間ポテンシャルの決定および軽い原子核構造への応用(3)格子QCD による核力ポテンシャルを用いた重い原子核構造の決定(4)格子QCD による核力ポテンシャルを用いた高密度状態方程式の計算(5)得られた状態方程式を用いた超新星爆発の数値シミュレーション(6)第一世代星を含む恒星進化や超新星爆発などで合成される重元素組成の計算、などを行うことが研究目的である。本領域の研究により、今まで個別に研究されてきたいろいろな階層の物質の起源に関する諸問題が1つの大きな枠組みで統一的に理解・解決される。このことは、宇宙に於ける重元素合成のメカニズムの解明という長年の懸案の解決に繋がるだけでなく、物質構造を複数の階層にまたがって統一的に研究・理解するという全く新しい研究方法のモデルケースを与えることになる。

(2)研究成果の概要

 本領域の活動は2008年12月の開始時点から現在までほぼ順調に進んでいる。研究の進捗状況及び研究成果の概要は以下の通りである。(1)計画研究A01 班では、格子QCD の数値シミュレーションを中心に活発に研究が進められた。(2)計画研究A02 班では、格子QCD による核力ポテンシャルの計算及びその展開、モンテカルロ殻模型による原子核構造の大規模計算、時間依存密度汎関数法による原子核反応計算、クラスター変分法による有限温度一様非対称核物質の状態方程式の計算などが行われた。(3)計画研究A03 班では、ブラックホールや中性子星の合体のシミュレーション、超新星爆発のシミュレーション、爆発的天体現象に於ける元素合成などに関する研究が行われた。(4)計画研究A04 班では、計算の高速化、データ共有、アルゴリズムの改良、計算コードの並列化などに関する研究が行われた。また、アクセラレータの導入やその使い方に関する講習会などが積極的に行われた。(5)個別の研究の進展に伴い、計画研究班をまたがった分野連携•融合の研究が開始された。具体的には、A01とA02 が連携した格子QCD による原子核構造の研究、A02 とA03 が連携した物質の状態方程式と超新星爆発の研究、A04 班による各分野の計算アルゴリズムなどの改良などがあげられる。(6)2009年度の途中から公募研究が開始された。(7)総括班が中心となり、領域全体の研究会やシンポジウムが企画された。また、2010年度は素核宇宙融合レクチャーシリーズが開始され、その第一回が行われた。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

 本研究領域は、量子色力学の真空構造とクォーク力学の研究から始まり、クォークの力学と核力、核力と原子核構造、原子核構造と爆発的天体現象、爆発的天体現象と元素合成など、様々な階層における重層的な物質構造と物質の起源に関する諸問題を、計算科学的技法を駆使し研究することで統一的に理解することを目指すものである。
 限られた計算機資源を有効に利用しつつ順調に研究が進展しており、格子量子色力学に基づく核力ポテンシャルの計算など、優れた研究成果も得られていることは評価できる。
 なお、連携、共同の側面をさらに強く推進するべきという意見があり、これを踏まえ、素粒子、原子核、宇宙の真の融合科学を生み出すよう一層の努力が望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --