高温高圧中性子実験で拓く地球の物質科学(八木 健彦)

研究領域名

高温高圧中性子実験で拓く地球の物質科学

研究期間

平成20 年度~平成24 年度

領域代表者

八木 健彦(東京大学・物性研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 水は鉱物中に固定され、含水鉱物となって地球深部に運ばれる。一部の含水鉱物はある深度で脱水し、マグマを生成する一因となる。残りはさらに深部に運ばれ、マントルのダイナミクスに大きく影響を及ぼす。近年の地球深部科学の進展により、水はこれまで考えられていた以上に地球深部まで循環し、地球内部の諸現象において大きな役割を果たす可能性が示されている。しかし実は、地球深部条件での水を見ることの実験的な困難さから、物質科学的実態はほとんど解明されていない。本研究領域は、このような水を含む地球深部物質の高温高圧下の研究を、水を見るのに最適なプローブである中性子を使って飛躍的に発展させるために計画された。そのためにまず、東海村J-PARC に完成した世界最強レベルのパルス中性子実験施設に、高温高圧下での中性子散乱実験に最適化したビームラインPLANET と、上部マントルの圧力温度領域をカバーする大型高温高圧実験装置を開発・建設する。この世界一の装置を用いて含水鉱物やマグマなど水を含んだ地球深部物質の物質科学的研究を新たに展開し、地球深部の水に関連する理解を飛躍的に進展させるとともに、この装置が将来的に物質科学の広範な分野の発展にも貢献することが期待できる。

(2)研究成果の概要

 本研究領域期間前半の最重要課題である高温高圧ビームライン(BL)は、J-PARC 物質・生命科学実験施設の非結合型減速材ポートBL11 への建設が、平成21 年1 月に正式に認められた。総括班を中心に、BL 各コンポーネントの設計・契約・建設が急ピッチで進められ、当初の計画通り、平成23 年春にファーストビーム導入、秋には待望の高温高圧下での中性子散乱実験が実施可能となる予定である。各計画研究は、それぞれの目指すサイエンスを遂行するのに必要なBL 仕様、新しい6 軸独立制御高圧装置のBL への導入検討や6-6 加圧方式の開発、中性子カメラの性能チェックなどで総括班と密接に連携するとともに、本格的な中性子利用研究を前に関連研究や予備的な研究を鋭意進めている。その中から、含水鉱物班による水素結合が秩序化した氷に関する研究や重水素置換した含水鉱物の合成成功とX 線による予察的な水素結合研究、マグマ班による高温高圧下における無水と含水アルバイトメルトのAl イオン近傍の構造の違いの発見、液体班と計算班の連携により常温常圧の水に残る氷に似た局所構造が、高温高圧下では単原子分子の液体のような単純な局所構造へと大きく変化するという水の新たな描像の解明などの顕著なサイエンスの成果も生まれてきている。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

 本研究領域は、高温高圧下での中性子散乱実験に最適化したビームラインPLANET と上部マントルの圧力温度領域をカバーする大型高温高圧実験装置を開発・建設し、水を含んだ地球深部物質の物質科学的研究を飛躍的に進展させることを目指すものであり、地球科学にとどまらず、物性物理の進展に寄与する重要な研究である。
 ビームラインが建設中であるが、高温高圧下の水の振る舞いに関し、計算科学的な研究成果、中性子実験用高圧技術の開発、予備的な中性子回折測定など、着実に研究成果を蓄積している。目的達成のための研究領域内の協力体制も評価できる。
 なお、現状では予定通りの中性子強度が得られていないので、装置性能の範囲内で、学術研究としての達成目標を明確にすべきという意見があり、この点へのさらなる取り組みが望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --