重い電子系の形成と秩序化(上田 和夫)

研究領域名

重い電子系の形成と秩序化

研究期間

平成20 年度~平成24 年度

領域代表者

上田 和夫(東京大学・物性研究所・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 希土類あるいはアクチノイド化合物において、伝導電子のスピン分極を介したRuderman-Kittel-Kasuya-Yosida(RKKY) 相互作用によって磁気モーメントは秩序化しようとする。しかし、同時に伝導電子との混成は、近藤効果による局在モーメントの遮蔽を引き起こす。Ce やU を含む金属間化合物では、混成強度の増大とともに後者の作用が優勢になって、基底状態は磁気秩序状態から非磁性のフェルミ液体状態へと移り変わり、量子相転移することがわかっている。このとき、RKKY 相互作用と近藤効果とが拮抗する量子臨界点付近において、有効質量の極めて大きいフェルミ液体状態が実現することが知られており、「重い電子系」と呼ばれている。重い電子系では、遍歴と局在の狭間で顕在化する量子臨界揺らぎが、非フェルミ液体状態や非s 波の異方的超伝導などの概念的に新しい現象を生み出すと考えられている。これまで、このような方向で重い電子系研究は着実な進歩を遂げてきたが、この様な遍歴・局在の対立という二元論的描像では理解できない新しいタイプの超伝導や磁性現象が最近次々と発見されており、電荷とスピンに加えて、軌道や格子の自由度が絡んだ多自由度性を考慮した概念構築が求められている。
 そこで本領域は、重い電子系の研究の新たな展開を図るために、1重い電子形成の直接観測、2非調和格子振動による新奇物性の発現、3新超伝導相や新多極子相の探索を進め、4磁性と超伝導の新概念を創出することを目的として設定する。

(2)研究成果の概要

 7 つの計画班と25 の公募班が研究を推進しているが、それぞれの班内での研究協力はもちろん、異なる班の間でも密接に連携をしながら研究を進めている。特に、物質開発グループが測定グループに試料を提供することによる連携、実験グループの結果の解釈に理論グループが協力する連携を2 本の大きな柱として、物質開発・物性測定・理論が三位一体となって有機的に連携し、まさに「領域研究」として研究を推進している。領域発足後の重要な研究成果として、URu2Si2の超純良単結晶育成と隠れた秩序の実験的ならびに理論的研究、レーザー光電子分光技術の確立と重い電子状態の直接観測、Yb および Pr を含む重い電子物質の開発、RT2X20やCeT2Al10のようなカゴ状構造を持つ新たな重い電子物質の創製と物性研究、重い電子系化合物の人工格子の作成、ラットリングによる磁場に鈍感な重い電子状態の研究などをあげることができる。これらも含めて、領域発足後の査読付き原著論文の発表は356編、学会や研究会における発表は883 件(国内での発表751 件、海外での発表132 件)、新聞報道されたトピックスは13 件である。これまでに、領域全体の研究会を2 回、トピックスを絞ったワークショップを4 回開催し、また、ホームページの公開やニュースレターの発行を通して、成果の広報と領域内外の連携に努めてきた。今後も、物質開発・物性測定・理論の連携協力体制を強化して、研究のピークを目指す。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

 本研究領域は、従来から議論される電荷とスピンに加えて、電子軌道や格子の自由度に着眼し、重い電子系の新展開を目指すものである。
 放射光や超高分解能光電子分光といった新しい手法の積極的活用などを通じて、当該分野で長らくの謎とされてきたURu2Si2 の隠れた秩序状態の理解や、「ラットリング」と呼ばれる結晶構造中の「かご」に閉じ込められた原子の非調和振動が生み出す新現象に関しては、着実な研究の進展が見られる。前半の取り組みとしては質、量ともに十分な研究成果が挙がっていると評価できる。また、公募研究における積極的な若手研究者の採択や本研究領域独自の博士研究員登用法など、次世代研究者のキャリアパス形成に関しても研究領域の強い意志が感じられ、この点も評価できる。当該研究分野は我が国が伝統的に強みを持っている研究分野であり、本研究領域に参画する研究者も、それぞれ優れた実績を有している。今後は、公募研究を含めた研究者間の連携を一層強化し、長い歴史のある研究分野の新たな発展を期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --