ユーラシア地域大国の比較研究(田畑 伸一郎)

研究領域名

ユーラシア地域大国の比較研究

研究期間

平成20 年度~平成24 年度

領域代表者

田畑 伸一郎(北海道大学・スラブ研究センター・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本領域研究では,国際関係,政治,経済,歴史,社会,文化を含む社会科学・人文科学の諸分野からロシア,中国,インドなどのユーラシアの地域大国を総合的,学際的に比較する研究体制を取っている。ユーラシアの地域大国が地域大国として発展・定着できる条件は何であるのか,また,それを妨げるような不安定要因は何であるのかという視点から比較を行い,各地域大国の特殊性,固有性の理解を深めることが第1の目的である。第2に,地域大国としての共通性を抽出することにより,地域大国が現代世界を主導する中軸国(米国,EU,日本など)に代わる何らかの新しいモデルを提示しているのかを検討する。第3に,世界システムを意識して行うこのような比較に基づき,世界システムのなかに地域大国を位置づけることが最終的な目的である。
 ロシア,中国,インド,トルコの4つの地域大国でユーラシアを捉え,その観点で世界システムを考察するという発想は,諸外国には見られないユニークなものである。本領域研究の狙いは,単なるBRICs の比較にあるのではなく,これら地域大国が帝国として存在した時期からの長期的な歴史のなかに,冷戦後の地域大国の台頭を位置付けるものである。本領域研究は,地域大国を,文化,宗教,イデオロギー,帝国的伝統,空間表象などに関わる多面性のなかで捉えるという試みである。

(2)研究成果の概要

 現実の世界においては,我々の想定以上に,中国やインドをはじめとする地域大国の台頭が著しくなっており,それに押される形で,主として現代の地域大国を分析対象とする社会科学系の計画研究班では,各地域大国の発展に関する分析やその世界システムのなかでの位置付けに関する分析が着実に進行している。たとえば,経済の分析では,現代のいわゆるグローバル・インバランスを米国の経常収支赤字と地域大国の外貨準備の増大の問題として捉え,世界システムと地域大国の関係を「再生ブレトンウッズ体制」の文脈で理解しようとする研究成果が出てきている。より長期的な視野で研究を進めている人文科学系の計画研究班においても,人間の移動,文化の接触やその相互受容,知識人の自国認識など,いくつかの共通するキーワードを軸に,研究が重なり合って進行しており,注目される成果が現れている。とりわけ,国境・言語圏を越えて発展するメディア環境の下で文化の均質化が進展する一方で,文化的ステレオタイプとしての国家・民族表象の再生産,伝統の再創出,文化的価値の商品化といった複雑な現象が起こっている状況は,この地域の社会の現代への適応と将来の方向を示唆するものとして,ディシプリンを超えた共同研究の対象となっている。今後は,人文科学系と社会科学系の研究成果の本格的な統合に向けて,一連の取り組みが予定されている。

審査部会における評価結果及び所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

 本研究領域は、ロシア、中国、インドを現代の世界秩序に挑戦する「地域大国」と位置づけ、これらの国々の特殊性・固有性を探究するとともに、共通性を抽出し、さらにはそれを通じて世界システムの理解の深化を目指すものである。
 その調査方法の一環として、地域研究者が専門外の地域に相互乗り入れを行っていることは注目に値する。これらの調査を通じて、学会誌レベルの論文も精力的に生産され、「帝国とその崩壊プロセスの比較」「地域経済統合」「内政比較」などの大きなテーマをめぐって、着実に研究成果が挙がっている。国内外の学会でセッションやラウンドテーブルを設置するなど、研究成果の公表についての積極的な姿勢も評価できる。公募研究も研究領域の特色を反映しており、計画研究と公募研究の連携もよくできていることも高く評価できる。
 今後の研究を通じて、「世界システム」「文明圏」「帝国」などの大概念についてのさらなる検討と、個別の研究課題についての研究成果を統合する、より大きな議論や理論的枠組みの提示が期待される。なお、この研究領域で行われている、地域研究者の相互乗り入れについては、その方法を通じて具体的にどのような新しい発見が行われるのかということを、より方法論的・体系的に明示してもらいたいという意見も出され、地域研究の方法論の再検討のための貢献も期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --