研究領域名:感染の成立と宿主応答の分子基盤

1.研究領域名:

感染の成立と宿主応答の分子基盤

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.領域代表者:

永井 美之(理化学研究所・感染症研究ネットワーク支援センター・センター長)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 21世紀を迎えた今日もなお、人類はエイズ、マラリア、結核を初めとする多くの感染症の脅威に曝されている。また、薬剤耐性病原体の出現など数多くの新しい問題にも直面し、感染症の克服は21世紀に持ち越された最大の医学的課題のひとつと言っても過言ではない。しかも、どの問題ひとつを取り上げても、その解決には過去に成功した枠組みは通用せず、新たなパラダイムの形成を必要としている。
 本特定領域研究においては微生物学者と免疫学者の協業と融合を基本的な考え方とし、個別疾患対応・対策型ではなく、感染と宿主応答に関する学理の追究と感染症一般の制御に有効な戦略の構築をめざすものであり、感染と免疫の研究の飛躍的発展が求められる所以である。とくに、表裏一体の関係にある両分野の研究を高い次元で一体化、融合させ、感染とそれに対する宿主応答の新しい科学的枠組みを創出し、感染制御の新戦略の提案へと結び付けることが求められる。感染と宿主応答の素過程を同時進行的に解析するため、1.感染初期過程の成立と自然免疫・粘膜免疫、2.感染に対する獲得免疫と感染病態の形成・修復、3.感染論と感染制御論の3つの研究項目を設定し、微生物学者と免疫学者を有機的に組織し、現代生物学のあらゆる概念と方法を駆使して、感染の成立と宿主応答の分子基盤を解明しようとするものである。

(2)研究成果の概要

 自然免疫に関与する数多くの宿主側新規分子や既知分子の新しい機能(TRL、IRF、RIG-I等)を発見した。一方、病原体の細胞内への侵入に対してはオートファジーが活性化され排除を試みるが、細胞内に定着する赤痢菌はオートファジーを巧みに回避する能力を備えていることを証明するなど、自然免疫が関わる感染と宿主応答における分子機構の解析では世界を圧倒的にリードすることができた。獲得免疫に関しても宿主側新規分子であるCD226(DNAM-1)の発見やT細胞活性化におけるMAPKによるLATのリン酸化によるNegative feed backの発見があった(A班)。感染病態に関しては、ヒト型OX40L抗体によるアレルギー、炎症性疾患治療の可能性を提起した。また、細菌毒素の作用機序、インフルエンザウイルスのパッケージング機構、ポリオウイルス標的機構におけるインターフェロンパラダイムの発見がこれら研究分野の世界をリードした。また、マラリア原虫の肝細胞感染機構や抗原性変異と免疫応答等について世界的な発見がなされた(B班)。感染の制御については、抗マラリア薬(N-89)、抗エイズ薬(ダルナビル)等の開発において著しい展開があった。また、エイズワクチン開発研究ではサルモデルにおいて野生型SIVの制御に世界で初めて成功した。マラリアではSE36ワクチンの第I相臨床試験が成功し、西ナイル熱ワクチンでは前臨床試験が終了した。また、無毒化コレラ毒素による世界に類のない粘膜ワクチンの開発研究が進展した(C班)。さらに、単純ヘルペスウイルス変異株によるoncolytic virotherapyにおいてウイルスの応用を大きく進展させた。
 本特定領域研究は感染と宿主応答に関する学理の追究と感染症一般の制御に有効な戦略の構築をめざすものであり、その実施よって微生物学者と免疫学者の協業と融合が本格的に始まり、上記以外にも数多くの重要な業績が生まれた。この領域研究はわが国の感染症・免疫研究に大きな足跡を残し、今後の方向性をも示唆したという点で大きな意義があった。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 本研究領域では、微生物学と免疫学の融合を理念として、新しい学際的な学問領域が形成され、新しい概念が生まれている。感染とそれに対する宿主応答メカニズムの解明、という目的にむけて微生物学と免疫学を専門とする研究者が一体となって統合的な研究が進み、多数の班員による国際的に先導的な研究が行われ、自然免疫など、優れた業績が多数生まれており、目的を充分達成したと言える。感染症という生命科学の重要なテーマに携わる様々な研究者が共に議論する場を構築した成果は大きく、今後、どのように感染症克服に向けて目に見える形で維持していくのかという課題はあるものの、感染症と防御に関する広い学問領域における貢献度は高かったと評価出来る。国際フォーラム、若手フォーラムを毎年開くなど、特定領域研究として有効な成果を挙げるべく良く体制・組織化を図るとともに、若手育成にも努めており、その努力は高く評価される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --