研究領域名:自然免疫による異物認識の分子基盤

1.研究領域名:

自然免疫による異物認識の分子基盤

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.領域代表者:

川畑 俊一郎(九州大学・大学院理学研究院・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 自然免疫においては、感染微生物表面の分子パターン(pathogen-associated molecular patterns, PAMPs)が標的となり、それを認識するタンパク質がパターン認識タンパク質と呼ばれる。すなわち、パターン認識タンパク質は、グラム陰性菌のリポ多糖、グラム陽性菌のペプチドグリカンやリポテイコ酸、そして真菌のβ-グルカンなどがつくりだす分子パターンを認識すると考えられる。近年、無脊椎動物の重要な生体防御反応である体液凝固系やフェノール酸化酵素前駆体カスケードの構成タンパク質、および種々の非自己認識レクチンや抗菌タンパク質が本領域代表者および計画研究代表者らを中心に報告されてきた。さらに、補体系においては、計画研究代表者らによるレクチンと新規プロテアーゼ複合体の発見が契機となって、パターン認識レクチンによる新たな補体活性化経路の分子機構が内外の注目を集めている。これらの反応系は、すべてPAMPsを直接認識する真のパターン認識タンパク質で開始されることが判明しており、それらの構造と機能解析を進めることにより、パターン認識という魅惑的な概念に潜む本質の解明に多大な貢献をすることが期待される。自然免疫の本質は、自己と非自己の識別という多細胞生物に共通する反応である。脊椎動物、無脊椎動物相互の自然免疫を比較研究するなかで、生物に普遍的な生体防御システムが見いだせるはずであり、そこに本研究の大きな特徴があり研究遂行の意義と価値がある。

(2)研究成果の概要

 カブトガニレクチン群の結晶構造を決定し、感染微生物を認識する構造基盤を分子レベルで解明した。また、リポ多糖(LPS)感受性のセリンプロテアーゼがLPS認識に関与していることを見いだした。TLRとは異なる受容体のLPS認識機構を初めて報告した点でその意義は大きい。また、節足動物外皮の創傷治癒の初期過程におけるトランスグルタミナーゼの重要性を示した。さらに、抗菌ペプチド群のキチン結合部位や殺菌に必要な構造モチーフを決定した。補体レクチン経路が、実際に細菌感染の初期防御に働くことを初めて示した。この経路は、MBLに加え新たな認識分子フィコリンよって惹起され、MASP-1主導による活性化とsMAPによる抑制からなる分子基盤をもつことを明らかにした。獲得免疫をもたない円口類ヤツメウナギや原索動物マボヤにもレクチン経路の存在を示すことによって、この経路が広く自然免疫の生体防御を担うシステムであることを明らかにした。ハエのペプチドグリカン認識タンパク質(PGRP)-LEを同定し、PGRP-LEが、多くのグラム陰性菌が有するDAP型ペプチドグリカンのみを特異的に認識することを明らかにするとともに、その結晶構造を決定した。ペプチドグリカン識別の重要性は、哺乳動物でも確認されるに至り、自然免疫における異物認識機構に新たな局面を開いた。また、PGRP-LEは、体液中でだけでなく、免疫応答細胞の表面では、PGRP-Lの共受容体として、さらには、細胞内でもパターン認識受容体として機能することを明らかにした。これらの知見は、パターン認識受容体の多機能性を初めて示したものである。カイコ体液からフェノール酸化酵素前駆体カスケードの新たな構成因子3種を単離精製し、カスケードが途中からメラニン形成経路と抗菌ペプチド産生経路(Toll pathway)に分岐していることを明らかにした。これは無脊椎動物の代表的な生体防御反応である二つの系が共通の異物認識機構を使っていることを示す重要な知見である。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本研究領域では、異なる生物種を用いて自然免疫による異物認識機構を解明することを目的としており、自然免疫における分子認識の構造基盤、パターン認識受容体を介した情報伝達、補体レクチン経路という三つの目標のそれぞれにおいて独創性の高い研究成果が得られており、各々はほぼ、目的を達成している。特に、研究領域の規模が小さいにもかかわらず、複数の受容体の構造を決定するなど、世界に発信できる優れた成果が着実かつ加速的にあげられている。それらの成果は、自然免疫という比較的新しい研究分野の発展および微生物学や分子認識の研究領域の発展に貢献したと言える。成果の発表等については、国際シンポジウム開催や国際会議への参加など積極的に取り組んでおり、研究領域内での連携がうまく行なわれている。このような着実な成果が、免疫制御におけるTollの役割や自然免疫と獲得免疫をつなぐ新しい研究領域へ向けて飛躍的発展につながることが期待される。今後は本研究領域の成果を基に、自然免疫と獲得免疫をつなぐ研究領域として如何に推進して行くかが課題であろう。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --