研究領域名:膜輸送ナノマシーンの構造・作動機構とその制御

1.研究領域名:

膜輸送ナノマシーンの構造・作動機構とその制御

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.領域代表者:

山口 明人(大阪大学・産業科学研究所・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本領域の設定目的は、1.ポンプとトランスポーターの結晶構造を決定し、それに基づいて膜輸送の作動機構を解明する。2.ポンプとトランスポーターの活性・発現・局在性調節機構を解明し、生理的役割と疾患との関わりを明らかにする。これらの研究を強力に推進することによって、ポストゲノム・ポストストラクチャーという革命的転換期にある膜輸送研究における主導的な役割を果たすことを目指す。
 本領域開始前後の関連分野での世界的な状況は、1998年McKinnonらによるK(カリウムイオン)チャネル、2000年豊島らによるCa2+-ATPaseの結晶構造決定により、チャネルとポンプはようやく一部の構造決定が成されたが、トランスポーターについてはまだ全く報告がないという状況であった。その中で、本研究領域はトランスポーターの構造決定ということを真っ正面に掲げて設立し、結果的に今日のトランスポーターのポストストラクチャー時代を切り開く先導的役割を果たすことができたことは、歴史的意義のある特定領域であったと考えている。
ポンプ・トランスポーターは生体膜における物質輸送の中心的な装置として生命現象に必須のものであるのみでなく、様々な遺伝的疾患とも関連しており、さらには異物排出トランスポーターはがん細胞や病原細菌の多剤耐性という臨床上の大問題にも深い関連がある。本領域の成果は、これらの問題の克服に今後大いに役立つ基礎を提供するものと確信する。

(2)研究成果の概要

 本領域の特筆すべき業績としては、山口らが細菌の主要異物排出トランスポーターAcrB、の結晶構造決定に成功し、トランスポーター研究のポストストラクチャー時代を切り開いた(Nature 2002)。中江らは、細胞質膜の異物排出トランスポーターと共同して働く、膜融合蛋白と外膜チャネル蛋白の構造決定に成功し、山口らの成果と併せて、細胞質膜輸送蛋白―膜融合蛋白―外膜チャネル蛋白という異物排出輸送体複合体の全体構造を世界で初めて明らかにした。その後、村上らはAcrB基質結合型結晶構造の決定にも成功し(Nature 2006)、異物認識の構造的基礎を解明すると共に、機能的回転機構という全く新しい排出機構を明らかにした。
 制御に関しては、金澤、若林らがそれぞれNa+(ナトリウムイオン)イオントランスポーター活性調節因子CHP1、2の構造決定に成功し、制御機構と筋ジストロフィーなどの疾患との関連を解明した。さらに、細菌細胞間情報伝達による異物排出トランスポーターの発現制御、インスリン分泌顆粒の細胞内膜融合におけるプロトンポンプの役割、グルコース吸収不全症の原因解明、MDRの腫瘍形成における役割、ノックアウトマウスを用いた排出トランスポーター・ポンプの生理的役割の解明など、ポンプ・トランスポーターの疾病等との関連についても続々と成果が出てきており、ポンプ・トランスポーターオリエンテッドの創薬という将来の展開へとつながることが期待される。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 細胞膜輸送蛋白質群は生物の生理機能の根幹を担うその重要さにも関わらず、立体構造、機能は研究領域が立ち上がった時点ではほとんど未知であった。本研究領域が非常に困難とされる膜蛋白の結晶化に基づく構造解析に正面から立ち向かい、異物排出トランスポーターであるArcBの構造決定を当初の計画通り成功させた事は高く評価される。さらに、研究領域の研究者が機能的に連携し、薬剤排出関連蛋白群の構造、機能解析を系統的に推し進めた。薬剤耐性菌や発癌機構への関与等、臨床面への応用も視野に入れた研究成果になっており、特定領域の設定が成功した例としても評価される。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --