研究領域名:ゲノムホメオスタシスの分子機構

1.研究領域名:

ゲノムホメオスタシスの分子機構

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.領域代表者:

品川 日出夫(大阪大学・微生物病研究所・招へい教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 ゲノム情報の正確な複製と子孫への確実な伝達は生物の最も基本的な特性であり、そのために多様なゲノムの安定的維持機構が進化してきた。DNAの複製阻害や二重鎖切断は放射線や化学変異原等の外的要因による損傷によって起こるだけでなく、正常な代謝過程でもDNAの特異な構造、DNAに結合したタンパク質や活性酸素等に起因するDNA損傷などによっても起こる。複製の阻害は回復が起こらないと複製フォークにおける複製複合体の崩壊を引き起す。その結果染色体の再編成が誘導され染色体の異常が起き、重篤な場合は細胞死に至らしめる。DNA上の損傷は突然変異の原因となり、複数の癌遺伝子や癌抑制遺伝子の突然変異によって、細胞の癌化が起こり、癌細胞では染色体の異常が頻繁に観察される。またDNA修復機構に欠損を持ち早期発がんをもたらす遺伝病の多くは早老症を伴うことから、突然変異の蓄積が老化の一因と考えられる。
 本研究においては、複製フォークの進行阻害を乗り越える複数の機構とDNA二重鎖切断を修復する組換え機構の関係及びこれらの障害に対する細胞の応答機構などについて微生物を主な研究材料として徹底的に分子レベルで解明するとともに、これらの機構の欠損が高等生物のゲノムの不安定化、細胞の老化、発癌などに及ぼす影響を解析した。減数分裂期には体細胞分裂期より遥かに高い頻度で組換えが起こる。これらの組換えの機構は組換え修復と共通の仕組みで起こるので、本研究領域の主要な柱として重点的に解析を進めた。

(2)研究成果の概要

  1. RuvA-RuvBタンパク質複合体の結晶解析、Holliday構造DNA-RuvAB複合体の電顕像、ミュータントタンパク質の機能解析の結果を統合してこれ等複合体の三次元構造モデルと反応機構の解析を先端的成果としてまとめる事ができた。分裂酵母のミュータントの分離と解析から、組換え中間体の解離に関与する遺伝子を多数分離することに成功しそれらの機能解析を進めた。組換え修復の初期過程の新規の経路Rad51-Swi5-Sfr1を発見した。減数分裂期組換えにDmc1と共に働く新規の2個の遺伝子Mei5、Sae3が同定された。
  2. 複製フォークの阻害に対処するフォーク構造特異的ヘリカーゼ/エンドヌクレアーゼHef(Fanconi貧血症の原因遺伝子のホモログ)を超好熱古細菌から分離し、フォークの精製における役割を解析した。
  3. リボゾームDNA領域における特異的複製阻害が二重鎖切断を引き起し、組換えによって重複配列の増減をもたらすことを解明した研究は世界の注目を浴びた成果である。
  4. 染色体構造維持複合体SMC5/6が組換え修復の中間体に働く事と染色体の切断を防ぐ機能を持ち、そのチェックポイントの制御における役割を明らかにした。別のSMCであるコーヒーシンも高等生物で組換え修復に関与する事を明らかにした。
  5. 本領域研究において分裂酵母で発見された遺伝子の高等動物での機能解析が行われ、両者で表現型の差異がみられた。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本研究領域は、生物に共通した遺伝情報の安定性維持と動的変化の解明に向け、組換えとその修復機構について分子生物学、分子遺伝学、構造生物学的手法を駆使して、質の高い研究成果を挙げた。設定された研究目的の中で、組換え反応の基本機構の解明および複製フォーク阻害の乗り越え機構における組換え機能の解明については、共同研究も含め活発かつ効果的に研究活動が行われ、設定目的は達成されたと判断される。とりわけ、RuvA-RuvB複合体の結晶構造に基づくHollidayジャンクションの動的メカニズムの解明、組換え中間体に関与する遺伝子の同定とその機能の解析、Hefの同定とフォーク構造DNA複合体モデルの構築などに関する新知見は、期待以上の成果が挙がっていると評価する意見もあった。研究者個別の成果の中には十分でないものが見受けられるとの意見もあったが、研究領域全体としては、DNA組換えおよびその修復分野における貢献度は国際的にも高く評価され、世界に発信できる重要な成果を積極的に公表したと判断される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --