研究領域名:免疫系ホメオスターシスの維持と破綻-自己免疫の解明と修復を目指して-

1.研究領域名:

免疫系ホメオスターシスの維持と破綻-自己免疫の解明と修復を目指して-

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.領域代表者:

坂口 志文(京都大学・再生医科学研究所・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 自己免疫病は稀な疾患ではなく、臨床的に発症するに至っていないものを含めれば、人口の約5パーセントが、何らかの自己免疫病に罹患していると考えられる。本領域では、自己免疫を免疫系のホメオスターシスの破綻と捉え、多角的アプローチから免疫自己寛容維持機構の基礎的理解を目指した。その理解に基づき、ホメオスターシスの破綻の修復による自己免疫病の治療・予防の新戦略の開発を目的とした。そのため、免疫応答の負の制御に枢要な制御性T細胞、T細胞への抗原提示に中心的役割を果たす樹状細胞の細胞レベルの機能解析、リンパ球に発現し免疫応答制御に関与する機能分子の同定とその機能解析、また動物モデルを用いて自己免疫病の発症に関与する遺伝子の同定とその機能解析を行った。本領域の研究成果は、自己免疫病の原因、発症機構の理解、その治療、予防法の開発に留まらず、免疫系に対し、自己から発生した癌細胞を如何に“非自己”と認識させ拒絶の方向に導くか、“非自己”である移植臓器を如何に“自己”と認識させ拒絶反応を阻止するか、またアレルギー反応を如何に抑制するか、についての新戦略の開発に繋がるものである。

(2)研究成果の概要

 本領域研究の成果として、(1)内在性制御性T細胞の発生、機能のマスター制御分子として、転写因子Foxp3をマウス、ヒトで証明した。実際、ヒトFoxp3の遺伝子異常は、I型糖尿病などの自己免疫病、アレルギーなどの原因となる。また、制御性T細胞に発現する機能分子の幾つかを同定、解析し、それらの分子を介する免疫応答制御が、自己免疫、腫瘍免疫、移植免疫の制御に有効であることを示した。(2)樹状細胞のサブセットの表現型、機能を解析し、分化成熟段階により、樹状細胞が免疫応答の誘導に異なる作用をもつこと、免疫応答の抑制的制御にも関与することを生体内で証明した。(3)免疫応答制御に枢要な各種免疫セマフォリン分子を同定、解析し、免疫応答、特に樹状細胞の活性化のみならず、心臓の臓器形成、破骨細胞の分化における重要性を証明した。(4)様々な抑制性補助シグナル分子による免疫制御機構を解析し、自己免疫病の病態形成におけるその役割を解明した。(5)全身性自己免疫病自然発症マウスを用いて、B細胞の免疫寛容破綻に関わる遺伝要因を解析し、感受性遺伝子の機能を解明した。またヒト関節リウマチと酷似する関節炎を自然発症するマウス系統を確立し、その疾患原因遺伝子を同定するとともに、その関節炎発症機構を解析した。以上の研究成果は、免疫自己寛容の維持機構、自己免疫病の発症機構、また広く免疫応答の制御機構の理解に寄与するものである。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 免疫自己寛容維持機構の基礎的理解を通じて自己免疫疾患の治療・予防法の開発を目的として制御性T細胞をはじめとする国際的に評価の高い研究成果が得られた。制御性T細胞マスター制御遺伝子としてのFoxp3遺伝子の発見など、制御性T細胞に関連した分子メカニズムの研究は突出している。さらに抗原提示細胞、B細胞による免疫制御の研究も着実に進められた。またSema4A、Sema6Dなどの免疫セマフォリンの研究成果も国際的に高い評価を受けている。各研究代表者の連携に注意が払われ効率的なグループ研究が展開された結果、小さい組織ながら極めてレベルの高い論文を発表しており、国際シンポジウムも行い公表に努めており評価される。これらの研究は世界的に見ても免疫学に多大なインパクトを与えており、自己免疫疾患の発症原因機構の理解に大きく貢献し、新しい治療法の開発にも貢献すると期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --