研究領域名:発生システムのダイナミクス

1.研究領域名:

発生システムのダイナミクス

2.研究期間:

平成12年度~平成17年度

3.領域代表者:

上野 直人(自然科学研究機構・基礎生物学研究所・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 生物個体の誕生から死までを制御する仕組みを明らかにすることは生物学の使命ともいうべき重要な研究課題である。とくに受精後の初期発生および器官形成過程に起こるダイナミックな形態変化といった発生現象の諸問題は長く実験発生学の対象であったが、細胞生物学、分子生物学といった学問の進歩に伴い、DNAに書き込まれた形づくりの設計図(ボディープラン)にしたがって、発生が制御され、生物の体制が構築されることが、個々のプログラム要素から構成される「発生システム」という大きな枠組みとしてとらえることが可能になった。また、「発生システム」は失われた組織を再構築する再生現象や、進化の過程での生物に固有な形態の獲得などを理解するための共通の概念としても認識されつつある。
この研究の目的は、発生現象を制御する個々の因子やそれによって制御される遺伝子群自身の存在はすでに明らかにされたものとし、時系列における発生制御遺伝子の活性化パターンや機能の解析から、いままでていた異なる遺伝子カスケード間のクロストーク、フィードバック制御など、発生現象を制御する複雑なシステムをより大局的にとらえることにより、未知の発生原理に迫ることである。また、「発生システム」における遺伝子活性化パターンの包括的解析を通して、その動物種間における差異的な解析から遺伝子制御機構の進化と生物多様性獲得の仕組みの関連づけることを試みる。

(2)研究成果の概要

 研究は概ね計画通り進展し、広く生物学への系統的・網羅的アプローチの重要性が浸透し、遺伝子プログラムの詳細や未知のリンクなどが解明されてきた。また、同時に再生現象における「発生システム」の「使い回し」や、その「発生システム」自身の進化・改変による多様性獲得の分子機構などが明らかになり、「発生システム」の動的な姿も浮き彫りになってきた。また、ユウレイボヤのゲノム配列解読に本領域の班員が大きな貢献をし、ホヤのシステム要素が網羅されたことにより、システム生物学(systems biology)へ移行を実現するとともに、脊索動物の起源について洞察することが可能になったことなど、ゲノム生物学の視点から発生生物学研究に新しい潮流を生み出しつつある。個別の研究からは、ホヤで古くから知られていた筋肉への細胞分化を運命づける細胞質「マイオプラズム」中の筋肉分化決定因子の発見、哺乳動物幹細胞の多分化能を制御する遺伝子の発見、プラナリアを用いた再生研究からはプラナリア脳の形成を抑制する因子の発見、ヒトやマウスで共通して見られる多指の遺伝的変異の解明、顎を持たないヤツメウナギの発生プログラムのヘテロトピー(異時性)によって新しい形態パターンとしての顎形成機構の実験的証明、器官形成における左右性を決定する遺伝子発見のなど、世界をリードする独創的な研究成果が本領域から生まれており、これらの研究成果はNatureを始め一流誌に発表され国際的にも高い評価を得ている。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 生物の発生原理の追求を目指して組織された本研究領域では、独創的で完成度の高い個々の研究により、発生システムにおける遺伝子ネットワークの重要性という共通概念が獲得された。これらの成果は、本邦の発生生物学のボトムアップに大きく貢献したと評価できる。また、本研究で公開された各種生物学データベースは、関連分野を含めた今後の研究に有効活用されることが期待できる。目標に掲げられた生物発生の多様性メカニズムの詳細な解明にまでは至っていないものの、総合的に判断すると、概ね当初の設定目的に達成していると評価する。また、一流紙に掲載された論文数を始めとして、一般教育講演会の開催、国際協力研究への貢献などを含め、成果の公表、普及に関する積極性は高く評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --