研究領域名:強磁場新機能の開発-強磁場印加による新プロセスと高機能ナノ材料の創製-

1.研究領域名:

強磁場新機能の開発-強磁場印加による新プロセスと高機能ナノ材料の創製-

2.研究期間:

平成15年度~平成17年度

3.領域代表者:

山口 益弘(横浜国立大学・大学院工学研究院・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本研究領域の研究目的は、主に非磁性物質に対して10T以上の強い静磁場を印加し、新プロセスの開発と高機能ナノ材料を創ることである。研究課題として(1)高磁気力により微小重力場を利用して材料制御を行う。磁気力による微小重力場は必然的に磁場配向などの磁気力以外の磁気効果も重畳する。これらを解明して新機能へと結びつけることが課題となる。(2)強磁場印加により組織制御して新機能を導く。磁場配向効果は対象系がナノサイズの分子集合体になってはじめて現われるという特徴がある。他の手段では配向が困難である材料も磁場配向させることができる。実際の物質系では磁場配向が起こる機構は単に分子の反磁性磁化率の異方性だけによるものではなく、集合状態や粘性など種々の因子や他の磁場効果が関与する。この点を解明しつつ物質の新機能を導く。(3)強磁場印加により生み出される高い磁気エネルギー状態を利用して新機能を導く。磁気自由エネルギーやゼーマンエネルギーが高くなると相平衡・化学平衡・反応系のスピン状態に影響が現れる。また、スピン化学と磁場配向を複合的に利用して光機能素子などの機能性ナノ構造体を形成する。さらに強磁場印加による弱磁性物質の機能変化を追及することも行う。
 本領域の究極のねらいは強磁場新機能を広範囲の物質・材料に適用できるように学理を体系化することにある。さらに、本特定領域は、我が国で生まれた独創的な研究分野”Magneto-Science”をさらに発展させて国内外に知らしめるという使命も持つ。

(2)研究成果の概要

 本特定領域研究では、従来の単純な磁場利用から、質的に高度な磁場利用へと深化した研究成果が得られた。(1)高磁気力により微小重力場を利用して材料制御を行う課題については、まず、磁気浮上炉を開発した。また、磁気アルキメデス効果を応用して擬似無重力状態での高純度な結晶成長を実現した。これにともない磁場環境での物質対流・化学反応の物理・化学を解き明かし、磁場による微小重力状態は、宇宙環境とは異質の特徴を持つことが明らかになった。(2)磁場印加による組織制御する課題に関連した課題では、有機高分子・無機固体・金属・合金・生体物質など広範囲の物質系において共通の基礎学理に基づく取り扱いができるまでに進展した。特に、磁場印加でしかなしえない3次元的な立体配向まで可能とし、その結果として磁場配向の一般論をほぼ構築した。ナノサイズ粒子集団の整列を実現しり、DNAその他の生体物質の高度分離法を生み出した。(3)高い磁気エネルギー状態を利用して新機能を導く課題については、形状記憶合金の変態や光ナノデバイスの特性を磁場で制御することができた。さらに、水に対する磁場効果について初めて科学的にこの課題に向きあい、水の物性が磁場により影響を受けることを実証した。これらの研究成果を国内外に発信して磁気科学”Magneto-Science”を世界的な学問分野に発展させることができた。また、世界初のテキストを刊行することにより学問分野の体系化を進めた。

5.審査部会における所見

B(期待したほどではなかったが一応の進展があった)
 強磁場で物質の構造と機能を制御して材料創製を行うことを目的として、実用的な強磁場研究装置・手法の開発により基盤整備を行い、様々な材料において新現象発見およびナノ構造の創製や制御に関する知見が多数得られている。新機能として利用可能と思われるものや高機能化につながると期待される興味深い結果も含まれている。英文専門書”Magneto-Science”を刊行して、本研究領域の成果を積極的に公表している点も高く評価できる。強磁場材料科学という新分野を発展させる観点からは、目的は一応達成されたと判断した。
 一方で、興味深い実験結果が出ているにもかかわらず現象解明や詰めが不十分な点も見られる、学理に至るにはまだ距離があると思われる、班間の連携が希薄で研究領域の全体像が明確ではない、などの批評もあった。強磁場下での物質構造制御に関する現象の解明と学理の体系化に向けての今後の努力と進展を期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --