DMFCによる環境低負荷型高効率エネルギー変換の新展開
平成13年度~平成17年度
山崎 陽太郎(東京工業大学・大学院総合理工学研究科・教授)
石油資源に恵まれないわが国では化石燃料を有効に使う必要があり、原理的に発電効率が高い燃料電池を実用化することがとりわけ重要である。現在高圧容器に充填した水素を燃料とした燃料電池自動車がテスト走行し、天然ガスを燃料とする家庭用燃料電池コージェネレーションが実証テストの段階に入っているが、これらの燃料は気体であり、輸送や貯蔵の観点から、より安全で運びやすい液体を燃料とした燃料電池の実用化が多くの人々から求められている。
液体燃料として多く使われているガソリンや灯油は燃料電池用燃料としては不活性であるが、メタノールやエタノールなどのアルコール燃料は、触媒存在下で電極反応が進行し燃料電池の燃料として使うことができる。現在メタノールを燃料とする直接メタノール形燃料電池(DMFC)が性能が高く実用化が期待されているが、水素を燃料とする燃料電池と比べると、十分な発電効率や出力密度が得られていない。また、燃料クロスオーバーのような特有の問題も抱えており、実用化には至っていない。
本研究は以上の背景をふまえて、液体燃料で発電する直接形燃料電池の実用化を加速することを目的とし、これに必要な基礎知識の獲得と基礎技術の確立とを目指している。
DMFCの実用化を進めるためには幅広い研究開発が必要であり、このために緊急度が高くかつ本質的な研究課題を広範囲から抽出し、その背後にある現象を明らかにし解決法の創出と構築に努めた。
成果の中で、メタノールクロスオーバーを2桁低減し出力と効率が改善できたことはDMFCの実用化推進に大きく貢献できたと思われる。また、電極触媒の担持および分布制御の分野においても、白金使用量を増やさずに、世界トップレベルの出力密度が達成できた。また、カーボンナノチューブの表面特性を利用して白金使用量を大幅に減らす技術を開発できた。一方、メソポーラスシリカを鋳型として合成したメソポーラスカーボン電極の開発は、世界最初の構造規則性を制御した触媒担持電極を創出し、その活性を認めたものとして、意義は大きく、さらなる展開が期待される。メタノールの毒性を回避する目的で始められた直接エタノール形燃料電池の研究からは多くの有用な知見が得られ、同時に、カーボンニュートラルの観点からも注目されている。また、アニオン交換膜形DMFCの高出力化を進め、貴金属触媒を使わないDMFCの可能性を示唆した。
以上のように本特定領域研究を通して、DMFCに代表されるアルコール直接形燃料電池を実用化するための有効な知識を集中して創出し、これを公開した。
B(期待したほどではなかったが一応の進展があった)
DMFCによる高効率エネルギー変換技術や環境低負荷DMFC実用化のためのテーマ設定に対して、基礎研究としての成果が得られていると認められる。さらに、産業界に委託できる知見をいくつか見出し、DMFC技術を高めたことは評価に値する。しかし、企業を始めとする既存の研究成果に対して、本特定領域研究によって新たに得られた成果の位置づけが明確でない上、新しい学問的ブレークスルーがあったかについても疑義があり、特定領域研究としての達成度が十分とは言いがたく、研究領域を構成する意義が希薄であったとの意見も多かった。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成23年03月 --