研究領域名:半導体ナノスピントロニクス

1.研究領域名:

半導体ナノスピントロニクス

2.研究期間:

平成14年度~平成17年度

3.領域代表者:

宗片 比呂夫(東京工業大学・大学院理工学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 バルク素材の物性とデバイスから始まった半導体と磁性体の研究は、基礎と応用研究の両輪がかみ合いながら微細化と多機能化を進め、情報産業を支える電子、光、磁性デバイスを生み出してきた。この研究・開発の行き着く先は、ナノ空間における物性制御とデバイス化である。本領域は、電子の「電荷」と「スピン」の両自由度が関与する半導体中での物理現象の研究者によって構成されており、「スピンを利用して初めて達成される機能を有するデバイスの試作」を旗印に、わが国の研究活動と世界の理工学に貢献することを目的に設定された。
 スピンで発揮される機能を応用して創出が期待されるデバイスには、(1)機能を融合する方向性を持つものと、
(2)これまで利用困難であった物理量の情報化(例:量子力学的情報処理)につながる可能性を秘めたものの2つがある。(1)については、磁気光学効果と光増幅の融合、不揮発性と電気信号増幅の融合、などが挙げられる。
(2)については、2準位系としてのスピンを電子的に制御・検出する電子デバイス、あるいは、偏光に伴う選択則を利用してスピン情報を伝達する光デバイスなどが考えられる。
 デバイス試作で重要となるのが、スピンの生成、注入、輸送、蓄積、操作、検出、の半導体構造中での連携である。これらの過程が、光と電気で制御可能な、半導体ナノスピントロニクスデバイスの基礎原理、材料・構造、作製・評価を追究する。

(2)研究成果の概要

(1)室温強磁性

キャリア誘起強磁性の学理を理論と実験の両面で確立した。Mn(マンガン)添加GaAs変調ドープ構造、n型ZnCoO薄膜で、室温に迫るキュリー温度が得られた。これらは、キャリア誘起強磁性の学理に基いて今後さらに発展させるべき課題と位置づけられる。キャリアの少ない室温強磁性ZnCrTeも更に掘り下げるべき課題と位置づけられる。IV族を母体とする磁性半導体の作製が本格化した。

(2)スピンデバイス

導波型光アイソレータの試作が半導体レーザを用いて進められ、将来性と今後の課題が明確化した。原理が未確立だが、光磁化の「てこ」やスピン起電力効果を利用した円偏光検出器が試作された。強磁性半導体やハーフメタルを組み込んだ磁気トンネル素子やスピン駆動磁化反転素子が試作され、低温だが、デバイス駆動上好ましい結果が得られた。電子の波動性を利用したスピン散乱の高感度検出が世界に先駆けて遂行された。不揮発性と増幅作用を融合したスピンMOS-FETが提唱された。量子点接触型スピンフィルタの理論が登場した。

(3)スピン操作

GaAs量子井戸中の核スピンの、電界・光・電磁波による量子操作が遂行された。シリコン中の核スピンの光励起と緩和による初期化と検出が遂行された。これらは、積極的な量子操作の基盤を与えるものである。追試が必要だが、スピン・軌道相互作用に基くキャリアスピンの電界操作、強磁性スピンの超高速光操作も、未開拓領域を切り拓くものと位置づけられる。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 材料スピン物性が発現する物理現象の解明と機能開拓・デバイス応用への展開に対して、優れた先駆的研究成果が生み出されており、基盤構築の目的も含めて特定領域研究としての十分な進展が達成されている。具体的には、新たな室温強磁性半導体系材料の創成と理論的解析、光スピンデバイスと電子スピンデバイスの開拓、ならびに、外場によるスピン操作に関して多くの優れた成果が認められる。また、量子情報応用に関する新規性の高い基礎的知見やアイデアも得られている。これら一連の研究成果は、独自のシンポジウムや国際協力研究を通して公表・普及に務められており、当該分野への大きな波及効果が期待される。研究分野の拡大と今後の展開において、我が国の優位性維持に大きく貢献したと評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --