研究領域名:環境安全学の創成と教育プログラムの開発

1.研究領域名:

環境安全学の創成と教育プログラムの開発

2.研究期間:

平成15年度~平成17年度

3.領域代表者:

高月 紘(京都大学・環境保全センター・名誉教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 大学等の教育研究機関では、これまで、実験廃液・廃棄物の処理を通して、環境教育を行ってきたが、近年、安全衛生管理の見直しと、環境ISOやPRTR(化学物質管理促進法)に象徴される環境負荷全体への配慮が、ますます重要になってきた。一方、科学技術は、試行錯誤を伴う実験科学に支えられており、その教育研究基盤は、我が国の未来を支えるために、是非とも必要である。すなわち、科学技術と環境・安全・社会との橋渡しをする学問が必要である。本研究領域は、これらの事項を総合的に取り扱う「環境安全学」を創成し、その成果を、教育研究機関のもっとも本質的な使命である教育に生かすために具体的な教育プログラムを提案しようというものである。まず、労働安全衛生を手本にしながらも、労働と教育研究の違いを明らかにしつつ、教育研究基盤のあり方を検討する。ソフト面では、化学物質管理と周辺環境への影響に関する説明責任を向上させる。ハード面では、曝露や環境影響、廃液処理を考慮した実験手法・研究立案の方針を示す。以上の事柄を、環境負荷とリスクを軸に、教育プログラムを構築する。これらの体系が、教育研究機関の施設整備、組織体制、教育研究に活用されることで、教育研究機関の環境安全衛生のレベルを引き上げることはもとより、環境安全衛生に配慮する学生の継続的な輩出につながるものである。

(2)研究成果の概要

 「環境安全学」の基本的な考え方を提示し、「教育プログラム」の材料を提示することができた。すなわち、当初の「環境安全学」の重要な命題である1)大学での教育研究は労働衛生とどのような関係にあるのか、2)環境と安全は相反するものなのか、しないのか、3)効果的な化学実験の環境安全実施方法とはどうあるべきかという議論に、一定の基本的考え方を示すことができた。それぞれ、1)教育研究機関の環境安全衛生には、構成員(学生や教職員等)を守ると同時に、環境安全を配慮する卒業生・社会人を輩出する意義がある、2)長い目で見て、安全の配慮と環境の保全が矛盾することは、ほとんどない、3)体験的、継続的、かつ時限的(ライセンスの更新を要する)な研修が効果的である、である。これらの実施に際しては、マネジメントを中心として、ソフト・ハードのインフラストラクチャーを必要とするものであるが、過大な設備である必要はなく、どの程度が分相応であるのかを判断するのに、リスクの概念が、有効であることを明らかにした。
 「教育プログラム」については、座学を中心とした教育内容についての目次的な組み立ては完了したが、本領域を進める上で、体験的・時限的な環境安全教育システムである「環境安全実験」構想、「モデル実験室」構想が上がってきた。これらが実現すれば、社会において、教育研究機関が、環境安全面での重要な役割をより積極的に担うことができる。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 「環境安全学」という新しく重要な学問分野の創成を目指して意欲的な研究が展開された。「教育プログラム」を提案するとともに、教育機関における安全を確保し、環境への配慮について教員・学生を教育する取り組みが着実に行われた。「環境安全学」の教科書も出版するなどの努力は高く評価できる。一方で、特定領域研究にふさわしい特筆すべき成果ははっきり見えていないという意見もあったが、「環境安全学」という重要な学問分野の創成に向けて、大きな一歩を踏み出したことは意義が高く、期待した研究は進展したと判断した。今後、この成果を各大学で利用可能な形に普及していく努力が望まれる。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --