研究領域名:動的錯体の自在制御化学

1.研究領域名:

動的錯体の自在制御化学

2.研究期間:

平成14年度~平成17年度

3.領域代表者:

巽 和行(名古屋大学・物質科学国際研究センター・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

目的: 化学は分子性物質およびその集合体の創造と、それにもとづく新概念との出合いとともに進歩してきた。標的とする化合物を意のままに設計し、かつ高選択・高効率に合成し、そして意のままに利用する分子レベルの「もの創り(物質創造)」と、それを担う化学反応が我々の文明社会や生命の営みを支えている。本特定領域研究では、次世代の物質創造研究の鍵として期待される高周期元素からなる活性分子種や機能性分子集合体など、立体構造や電子構造が柔軟で時間的・空間的に多様な動きを見せる化合物群を「動的錯体」と定義し、その化学的挙動の本質をきわめ、その反応を精密に制御する新しい化学分野の確立を目的とする。これまで我が国が世界をリードしてきた物質創造研究の成果を土台とし、とりわけ制御が困難とされてきた高周期元素からなる動的錯体の構築手法を開拓し、その化学反応を自在に操って新たな機能性物質合成の概念を具現化することをめざす。
意義: 本特定領域研究の「動的錯体の自在制御および反応制御」の考え方は、dブロック金属、fブロック金属、高周期典型金属元素からなる、多様な分子性化合物群に対して普遍的なものである。本研究で得られた動的化合物や物質変換の新概念は、物質創造研究を行う化学分野のみならず、さまざまな基礎学問の進展の礎となり、その発展にも大きく貢献するものと思われる。さらに、新機能が付与された物質や材料を創製するための学術的根拠となろう。

(2)研究成果の概要

 「高周期元素動的錯体の新たな反応制御化学を確立する」という共通目標に向けた研究活動が順調に進行し、世界に誇りうる数々の新物質、新触媒、新合成手法、新反応の開拓を達成した。とりわけ、複数の研究項目の設定概念を共有する以下の研究成果が特筆される。(1)「シリコン-シリコン三重結合の形成」や「ニトロゲナーゼおよびヒドロゲナーゼ活性クラスター部位の人工構築」など、柔構造をもつ動的分子性化合物の構築、(2)「不安定シリレンの反応制御によるトリシラアレンの合成」や「5配位超原子価動的化合物によるSN2反応時空間の視覚化」など、反応中間体等の動的錯体の自在制御法の確立、(3)「新規リン配位子を導入した高効率な動的触媒反応場の創出」や「超臨界二酸化炭素中の反応場制御法の確立」など、新たな動的分子反応場の創製、(4)「動的希土類触媒の構築と新共重合反応開拓」や「ラジカル反応制御触媒による高効率動的反応システムの創製」など、動的錯体による高効率化学変換法の開拓などが達成された。本特定領域の研究活動を通じて、当初に提唱した「動的錯体を自在制御する」研究概念が国内外に広まり、今後の物質創造化学研究の新たな方針が確立されるとともに、「もの作り」科学研究の重要性と化学者の力量が世に示された。高周期元素化合物を対象とした自在制御化学における本研究成果を核として、基礎・応用にまたがる関連分野の研究の新たな展開が促されよう。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 領域代表者のリーダーシップのもとで、卓越した研究者が「動的錯体」という基本理念を共有することによって有機的に連携し、反応制御に関して質・量ともに世界をリードする顕著な成果が得られた。さらに、若手研究者の育成による当該学問分野の底上げがなされるとともに、研究成果の公表・発信も効果的になされており周辺分野に対して大きな波及効果があった。以上のように、特定領域研究の意義を具現化しており、期待以上の進展があったと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --