研究領域名:強レーザー光子場における分子制御

1.研究領域名:

強レーザー光子場における分子制御

2.研究期間:

平成14年度~平成17年度

3.領域代表者:

山内 薫(東京大学・大学院理学系研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 「“光”によって、分子過程と化学反応を制御できるか?」という本質的であり、かつ、現代科学への挑戦でもある問いかけに、日本の持てる「知」と「科学技術」の総力を結集することによって、具体的な解答を与え、「光子場による反応制御の方法論」を確立することが本特定領域研究の第一の目的である。そして、日本における近年の先端的努力を組織的に結び付け、化学、物理学、レーザー工学の分野の研究者の学際的な研究交流および学術交流に基づいて、「レーザーによる化学動力学の制御」および「レーザー光子場デザイン工学」という21世紀の新しい科学と工学の創成を促進する。そのために、実験グループと理論グループの密接な連携や、学際的な共同研究プロジェクトを推進することによって、次の4つの課題を達成することを目標とした。
 課題1:強光子場下の分子・クラスター・凝縮系における新奇現象の観測
 課題2:強光子場下での分子ダイナミクス理論の構築と方法論の開発
 課題3:最適化光子場パルスの設計による強光子場下での化学反応制御
 課題4:超短パルスX線・高次高調波の発生と波形整形技術の確立

さらに、先端研究を支え、大きく発展させるとともに、日本における研究活動が国際的なリーダーシップをとるために、以下の活動目標を設定した。
 活動目標1:分野横断的な学際的かつ先端的な研究交流を活性化させること
 活動目標2:国際交流を通じ、日本における本特定領域の活動を海外に広報すること

(2)研究成果の概要

 本領域では、分野横断的な学際的研究交流が行なわれ、上記4つの課題のそれぞれについて高い達成度が得られた。課題1では、分子内の水素が強光子場下で多様な現象を引き起こすことが見出され、炭化水素分子からのH3+分子イオン放出、分子内水素原子移動などが観測された。課題2では、強レーザー電場中の時間依存断熱ポテンシャル曲面を求め、その上で波束の時間発展を行う「時間依存断熱状態法」が開発され、課題3のテーマである反応制御機構が明らかにされた。課題3では、課題4で開発された波形整形器が実際の分子の反応制御に適用され、最適化制御によって、選択的化学結合切断や多重イオン化における電荷数の制御に適用された。また、課題4では、レーザープラズマによるX線発生の高輝度化、短パルス化が進められ、時間分解X線回折・吸収に応用された。さらに高次高調波の高強度化も大きな進展があり、非線形現象が観測され最も直接的な自己相関法にてアト秒のパルス幅測定が可能となった。

 本領域においては、「強光子場科学」の振興のため、産学連携型の「強光子場科学研究懇談会」を設立し、大学や企業の研究者が学術における交流を深めてきた。また、フロンティアを国際的な連携の下に開拓するために、本領域のメンバーが主要メンバーとして加わり日本学術振興会の助成を受けて先端研究拠点事業「超高速強光子場科学」を開始した。この国際交流研究は、英文総説誌の刊行という活動として発展し、日本を発信地とする「強光子場科学」が全世界に広がりはじめている。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 近年の超短パルスレーザー光の技術開発により現実となった強レーザー光子場での反応に着目し、強光子場下における新現象の発見、分子ダイナミクスに関する理論構築と方法論開発、化学反応制御などに成功している。また、レーザープラズマによるX線発生の高輝度化・短パルス化が進められ時間分解X線回折・吸収に応用されている。これらの成功は、実験と理論、基礎科学と工学が密接に連携・融合することで得られた結果であり、強いリーダーシップと班員の努力により達成されたものである。他分野から見ても本分野は世界的に注目されており、国内外への情報発信と交流を強力に推進し、我が国が主導する研究領域に仕上げた点も高く評価できる。以上の観点から、本特定領域研究は期待以上の研究の進展があったと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --