研究領域名:重力波研究の新しい展開

1.研究領域名:

重力波研究の新しい展開

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.領域代表者:

坪野 公夫(東京大学・大学院理学系研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本特定領域研究では次の2点を最重点課題として推進した。
(1)銀河近傍からの重力波検出をめざしたTAMA300の観測運転
(2)次世代大型低温重力波望遠鏡LCGTのための技術開発
銀河近傍での連星中性子星の合体、MACHOブラックホールの合体、超新星爆発などからの重力波検出をめざして、TAMA300検出器の整備と観測を(1)でおこなった。TAMA300は世界に先駆けて国立天文台に建設された基線長300メートルのレーザー干渉計であり、これを用いた重力波探査は重力波源に対する新たな知見を与えるものである。また、(2)では低温、防振、レーザーなどに関する次世代干渉計LCGTのための技術開発を推進した。このような先進的な技術を土台に、低温鏡利用の100メートル基線長プロトタイプであるレーザー干渉計CLIOを神岡宇宙素粒子研究施設内に建設しそのパフォーマンスを実証した。レーザー干渉計に低温を導入するのは日本独自の技術であり、検出器高感度化の切り札として世界的に注目されている。以上の主研究項目に、重力波の理論的研究や干渉計の応用技術を加え、重力波研究領域の新たな展開を図った。

(2)研究成果の概要

 レーザー干渉計TAMA300にリサイクリング技術を導入することにより、高周波域における感度向上を達成した。その他の改善も含めた装置のグレードアップにより、連星中性子星の合体に関しては70kpc(キロパーセク)遠方で起きた事象まで十分な感度で検出可能となった。米国LIGO干渉計群との同時観測運転を2003年2月中旬から2ヶ月間にわたって実施した。このTAMA-LIGO同時観測で得られたデータの解析結果は日米共同で公表されている。TAMA300は既に3,000時間以上の観測データを蓄積しており、これまでに連星合体に伴うチャープ重力波、ブラックホールのリングダウン重力波、超新星バースト重力波、連続重力波などに対する上限を求めその結果を報告した。
 同時に、TAMA感度の2桁向上を図る次世代干渉計LCGT計画のための技術開発を進めた。低温鏡技術、高性能低周波防振、高出力高安定レーザーなど、次世代大型低温重力波望遠鏡LCGTに必要な要素技術はほぼ出そろった。プロトタイプ実証機である100メートル低温鏡レーザー干渉計CLIOが神岡鉱山の地下に建設され、現在その性能を検証中である。神岡地下に建設されたCLIO用トンネルを利用した地殻ひずみ計が、これまでにない高感度の地球深部観測手段として稼働中である。また、低温鏡実現のために開発された静粛冷凍機(特許出願中)がナノテクノロジー分野でも脚光を浴びるなど、他分野への波及効果もあらわれている。

5.審査部会における所見

B(期待したほどではなかったが一応の進展があった)
 重力波検出実験は周囲の環境雑音の低減との戦いであり、その点で低温ミラー、パワーリサイクリングなど困難な要素技術開発に独創的で有意義な進展があったと認められる。またLIGOとの同時観測にも成功しており、重力波検出には到っていないものの本研究領域は着実な成果をあげている。しかし、研究項目が多く、開発の方向が多方面にわたっていたため、領域としての研究の焦点が見えにくかったきらいがある。今後、海外等の競合計画も考慮しつつ、重力波検出という最終目標に向けての明確な方針と戦略を再構築し、次のステップに進むことが期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --