研究領域名:質量起源と超対称性物理の研究

1.研究領域名:

質量起源と超対称性物理の研究

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.領域代表者:

金 信弘(筑波大学・物理学系・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 20世紀後半の素粒子物理学は、「素粒子標準理論」と呼ばれる素粒子反応の基本理論が加速器実験によって実証されることによって、発展してきた。この標準理論の根幹をなす「ヒッグス粒子の真空凝縮によって素粒子に質量が与えられる」という質量起源に対する予言は未だ実験室で確認されていない。質量の起源がこの標準理論の説明で正しいのか、それともこの理論の枠組みにおさまらない新理論にあるのか、は今後の素粒子物理学の方向を決める最も重要な課題である。本領域の研究目的は、ヒッグス粒子を直接・間接に探査すること、及び、ファクトリー加速器を用いた精密実験で「標準理論からのずれ」を発見して新しい物理の手がかりを得ることによって、質量起源の解明に寄与することである。また公募研究によって、次世代の素粒子物理学を担う若い研究者が、将来の加速器を使った実験に対し積極的に提案をし、かつその開発研究を行うこと推進する。本領域の研究は、素粒子物理学と密接な関係にある宇宙物理学にも大きな影響を与える。150億年前に、ビッグバンから始まった宇宙の進化の過程を理解するのに、粒子の質量起源の解明は必須である。宇宙が、なぜ今の宇宙でありえたのか。フェルミオンの質量パラメータがなぜ現在の数値になっているのか。この問題の答えは、素粒子物理学のさらなる進展なしにはあり得ない。本領域では、この答えを出すべく、素粒子物理学の進展を促進することを目指す。

(2)研究成果の概要

 本研究領域においては、上記の研究目的に関して3つの大きな成果があがっている。一つは、ヒッグス粒子の間接探索により、95パーセントの信頼度でヒッグス粒子の質量を114GeV/c2~166GeV/c2という狭い範囲に限定することができたことである。これはヒッグス粒子についての知見の大きな進展であり、今後の直接探索に重要な指標を与えることができた。第2には、標準理論を超える新理論の手がかりとして、トップファクトリー、Bファクトリー、Kファクトリー加速器を用いて測定を行なってきた結果、これまでにない高精度で標準理論を検証できたことである。第3の成果としては、標準理論を超える新理論の手がかりとして、Bファクトリー加速器を用いた実験において、bからs遷移崩壊過程のCP非対称度を測定した結果に「標準理論からのずれ」が見えたことである。これらの成果は素粒子物理学の発展を加速した。また、この理解の進展は初期宇宙のより深い理解につながっていく。また本研究領域では、5年間の研究期間に31名の博士号取得者を出している。その多くは、現在、国内・海外の研究施設において世界第一線の先端科学研究に取り組み、成果をあげつつある。このことに端的に表れているように、若手研究者の育成という観点からも素粒子物理および関連分野へ貢献した。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 ヒッグス粒子の質量範囲の限定、高精度での標準理論の検証、CP非対称性の精密測定による標準理論からのずれの発見など、本研究領域の6つの研究班のいずれにおいても目覚しい研究成果を得ている。これらの研究成果は、科学の基盤となる素粒子物理学・宇宙物理学の重要な知見を与え、素粒子物理学および近接分野の進展へ大きな貢献をした。本研究は、大型国際共同研究プロジェクトの一部であり、特定領域研究による研究成果のみを切り出すことは難しいが、日本からの参加グループは各研究チームで十分な存在感を持った貢献をしており、また、大学の研究者が大型国際共同プロジェクトに参加する機会を提供するなど、本特定領域研究の果たした役割・意義は大きく、期待通りの目的を達成したと考える。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --