研究領域名:アジア法整備支援-体制移行国に対する法整備支援のパラダイム構築-

1.研究領域名:

アジア法整備支援-体制移行国に対する法整備支援のパラダイム構築-

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.領域代表者:

鮎京 正訓(名古屋大学・大学院法学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 近年、社会主義体制から市場経済体制に移行しつつあるアジア諸国は、市場経済化に相応しい法体制を整備するために、外国とりわけ日本の知的・人的支援を求めています。具体的には、日本政府は1996年以降、ベトナムに対する法整備支援を開始し、その後、カンボジア、ラオス等の諸国に対する支援も行なってきました。そして、法整備支援の実際のなかで、法整備支援の理念とは何か、どのような国に対して、またどのような法分野に対して援助を行なうのか、というような基本的な諸問題が問われてきました。
 本領域研究においては、実際に行なわれつつある法整備支援事業を学問的に検討し、法整備支援学の構築をめざしてきました。そのために、1.アジア体制移行諸国における法整備を、歴史的および国際的な環境のなかで考察し、2.アジアの体制移行諸国の法整備、司法制度改革、法曹養成、法学教育の現状と課題を解明し、3.法整備支援に対する評価を、行政学的観点からの考察も含めて検討し、その手法の開発を試みました。
 そして、これらの研究を遂行するうえで、1.法整備支援という新しい現象を、法学、政治学、開発学、国際協力学の学際的研究として行ない、2.名古屋大学法学部、大学院法学研究科が10年以上にわたり作り上げてきた国際的なネットワーク、すなわち支援対象国の司法省、大学、また欧米諸国の大学、支援機関ならびに国際機関との協力のもとに進め、3.アジア諸国の法整備には、立法あるいは法学教育に携わる人材の育成が不可欠の課題であるという認識にもとづき、本研究を各国からの留学生にたいする教育と緊密に結びつけて推進しました。

(2)研究成果の概要

 法整備支援の実際の進展ならびに多くの法学研究者および法律実務家の法整備支援への取組は、法整備支援という新しい現象を本格的に研究することを人々に求めるに至りました。
 そのようななかで、名古屋大学の研究者をはじめとして、早稲田大学、大阪大学の研究者をそれぞれ研究代表者とする、文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「アジア法整備支援-体制移行国に対する法整備支援のパラダイム構築」が2001年10月から2006年3月まで4年6ヶ月の期間に亘り実施されました。このプロジェクトの課題は、日本および世界の援助機関が行っている法整備支援という事業を、各援助機関の経験に即して理論化するとともに、WTOを含む市場経済化の国際環境、社会主義法からの移行と法整備、伝統と「近代」化、司法改革の現状と課題、法整備支援の手法と法整備支援事業の評価などについて研究し、大きくはこれまでの「輸入型」の日本の法律学のあり方から脱皮し、新しい日本の法律学を開拓していくという展望を含んでいました。そして、これらの法整備支援の実際の仕事及び法整備支援の理論研究の仕事を通じて、モンゴル、ウズベキスタン、ベトナム、ラオス、カンボジア、インドネシアなどアジア諸国の法に精通した若い世代の研究者及び実務家を層として確立しました。
 明治維新以降の日本の法制度整備は、たとえば条約改正にみられるように、欧米と日本の当時の力関係に基礎付けられた不平等性を解消するという動機付けによって大きく規定されてきました。したがって、法の分野で西欧に追いつくということが至上命題となり「輸入法学」としての性格を強くもってきました。法整備支援という事業を通じて、従来の日本の法律学が関心すらもたず知識を共有できなかったアジアの諸地域の法と社会に関心を向け、そしてそのことを通じて、日本法のあり方そのものについての新たなパラダイム構築を可能にすることこそが、今日強く求められています。法整備支援は、大学においては、留学生の受け入れというような形で行われる法学教育に関する重要な論点に関連しており、本研究プロジェクトでは、途上国の人材養成や法学教育をどのように行うかが問われてきました。そして、本研究プロジェクトでは、日本の法情報発信をどのような言語によりいかなるカリキュラム、教材にもとづき行うのかという研究を発展させ、2005年にはウズベキスタンのタシケント法科大学に、また、2006年には、モンゴル国立大学法学部に「名古屋大学日本法教育研究センター」を設立しました。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 発展途上にある国々の法整備支援、法曹人材養成という意味では大きな成果を挙げたと評価できる。研究成果の公表においても明確な実績があるが、今後は国際的にも研究成果を一層発信して行くことを期待する。また、こうした法整備を通じて蓄積されるノウハウを評価するための枠組みの構築とともに、国家法と慣習法との関連を把握して行く上で、法人類学や文化人類学、法社会学、政治経済学といった学際的な対話をさらに進め、法概念の普遍性、相対性に留意しつつ、法学的パラダイムの構築に一層努めて欲しい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --