研究領域名:経済制度の実証分析と設計

1.研究領域名:

経済制度の実証分析と設計

2.研究期間:

平成12年度~平成17年度

3.領域代表者:

林 文夫(東京大学・大学院経済学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本特定領域は、どうして90年代の日本経済が停滞したのか、また、21世紀の日本を再び繁栄に導くような制度をどう設計したらよいのか、という二つの問題に一応の回答を出すことを目的として、平成12年秋に発足し、平成17年度末に終了した。このような目標を達成するための研究チームは、数個の研究班(研究項目)とそれをまとめる総括班で編成された。研究期間の中途で、本領域の目標を明確化し、次の2つとした。
1.どうしてGNP成長率が90年代に低下したのか。
2.経済成長を回復するためにはどのような諸制度を整備すればよいのか。
この目標を達成するため、次のような3つの具体的な研究段階を設定した。
 A)GDPの変動は、TFP(全要素生産性)、資本投入、労働投入に分解できるが、90年代に、それらの要素にどのような変化が起きたのかを、マクロレベル、産業別、ミクロレベルで検証。
 B)起きたとすれば、日本経済を取り巻くどのような内外の環境の変化によるものなのかを分析。
 C)新しい環境に適応できる制度の設計。
 本領域の意義は、この研究段階それぞれについて、多数の研究成果が得られたことである。すなわち、「失われた10年」と呼ばれる90年代の日本経済の長期停滞を数量的に記述し、停滞の原因を識別し、その原因を除去するような政策提言を行った。ただし、一番重要な原因と思われるTFP成長率の低下の分析については、残された課題が多々ある。

(2)研究成果の概要

 1990年代の日本のGDPの変動をTFP成長率と資本・労働投入の変動に分解すると、TFP成長率・資本成長率・労働成長率のいずれも80年代に比べて低下している。これらの要因について、マクロ・産業別・ミクロデータを用いた実証分析を行った。われわれの実証研究によると、資本の成長率の低下は、90年代の不良債権の急増による金融仲介による投資の低迷による。労働投入の停滞は、1980年末以来のいわゆる「時短」という制度的要因も一因である。TFPの成長率は、需要要因による部分は少なく、その大部分は技術進歩率の停滞による。さらにその技術進歩率の停滞の一部は、90年代に行われた公共投資の非効率な地域別配分による。動学的一般均衡モデルによる分析によると、金融政策・財政政策が90年代の停滞の主要な原因であるとする説は支持されない。我々の研究では、技術進歩率が停滞した理由として、上述の政府による無駄遣いの他に、産業への不十分な新規参入、高校新卒者と雇用者である企業とのミスマッチなど、いくつかの原因を特定したが、TFPの決定要因についての包括的な研究までには至らなかった。そのため、TFP成長率を上昇させるような制度の提言はできなかった。しかし、国際通商制度、国際通貨制度、財政・金融政策、社会保障制度、破綻法制、政治制度一般について、経済分析に基づいた広範にわたる政策提言は行った。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本研究課題は、1990年代の日本経済の長期停滞を形容する「失われた10年」を解明するとともに、それを克服するための制度設計や政策提言を導出することを目的としている。具体的には、研究成果として、90年代のTFP(全要素生産性)、資本投入、労働投入の計測が行われ、長期停滞の原因をTFP成長率の低下、金融仲介機能の不全に由来する投資の停滞、非効率な公共投資に求め、それに対する政策的な処方が明らかにされている。数多くの研究成果は、質量ともに一定の水準を満たし、所期の研究目的は十分に達成されたと評価できる。
 他方、TFP低下の原因究明、国際的な視野に立った研究の進展、研究成果の情報発信や社会的な還元という面では、やや不十分さが見られる。加えて、具体的な政策提言など、より実践的な応用研究にももう少し力点を置くべきであったと思われる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --