研究領域名:性分化機構の解明

1.研究領域名:

性分化機構の解明

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.領域代表者:

諸橋 憲一郎(自然科学研究機構・基礎生物学研究所・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 多くの生物種は二つの性「雄と雌」を獲得することで有性生殖を確立した。この生殖のプロセスは次世代に遺伝情報を受け継ぐことで種の存続を可能にしたばかりでなく、遺伝的多様性を生み出す原動力となった。従って、雌雄の分化こそが地球上の多様な種の繁栄を可能にした基本原理であり、「性の分化」は極めて重要な研究対象である。動物個体の性の分化は生殖腺に始まり、性的に未分化な生殖腺原基が精巣または卵巣へと分化を開始する。次いで、精巣と卵巣で産生される性ホルモンにより、脳の性差を含む個体全体の性が確立するのである。本特定領域研究では、このように生殖腺から個体全体へと広がる性決定・性分化の過程に不可欠な分子メカニズムを明らかにすることで、性分化機構を包括的に理解することを目標とする。性分化メカニズムの特徴は、性決定の多様性であり、可塑性である。そしてこの研究では、性が雄性化シグナルと雌性化シグナルのバランスの上に成り立つとの視点から、シグナルとバランスの実体を明らかにすることが重要であると考えられる。本研究領域では「性分化の分子基盤の解析」、「脳の性分化と行動の解析」、「性分化異常症の解析」の3項目を重点課題と位置付け、領域横断的な協力体制をのもと、目標の達成を目指している。各種動物における性決定と性分化機構の多様性と普遍性が明らかにされれば、その学術的意義はもちろんのこと、医学、農学、薬学や環境問題への波及効果は極めて大きい。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 メダカ、ニワトリ、マウスなどの脊椎動物を中心に生殖腺の性決定と性分化の基本的メカニズムに関する研究を行った。これらの解析から、生物種間における性決定メカニズムの多様性を明らかにした。特に、哺乳類(SRY)とメダカ(DMY)の性決定遺伝子の機能と、Y染色体の進化の解析から、性の獲得過程が動物種によって独自の経過をたどったことが明らかになった。また、生殖腺と外性器の形成には様々な遺伝子の関与が知られている。組織形成過程における、これらの遺伝子の相互関係、すなわち遺伝子カスケードの解析を行ったところ、クロマチン構造を制御するポリコーム因子M33がSRY遺伝子の制御を行っていることが明らかになり、全体像の解明が進んでいる。一方、多数のヒト性分化異常症が原因不明である。以上の成果をもとに、性分化異常症の解析を行ったところ、新たに二つの原因遺伝子の同定に成功した。性行動や情動における性差は脳の性分化の重要な表現型である。脳の性が生殖腺の性ステロイドに依存するのか、または脳自律的に進行するのかについて解析するとともに、性行動や攻撃行動が性特異的に発現する仕組みを調べた。主に性ホルモンとの関連で検討し、エストロゲン受容体を介するソマトスタチンの発現上昇が重要であること、また性行動と攻撃行動がエストロゲン受容体とアンドロゲン受容体によって制御されていることを示した。脳の自律的性分化の観点から、ニューロステロイドの役割が示唆された。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 本研究領域は、動物界に広く存在する性分化のメカニズムの多様性および普遍性を明らかにすることにより、その包括的理解を目指している。これまで3つの研究項目を設定し、それぞれの研究は、ほぼ順調に進展しているといえる。特に性決定に関わる各種の動物の遺伝子の機能解明や発現調整、そしてこれらの動物モデルを用いた遺伝子カスケードの全体像の解明では、優れた論文発表がなされている。支援班および若手の育成はうまく機能している。また、ホームページの充実やニュースレターの発行など、社会への広報にも務めている点も高く評価できる。しかしながら研究領域全体のテーマが広すぎるために、「多様性」は順調に解明されている一方、もう一つの課題である「普遍性」を明らかにする方向性が見えていない。研究材料や対象の多様性から共同研究の難しさが理解できるが、テーマを絞り込み、より一層の特定領域研究としての特長を生かした共同研究の推進やデータの共有化が望まれる。本研究領域は、有性生物の多様性や進化の解明にもつながる有意義な研究である。今後は、世界に発信するようなレベルの高い研究へとさらなる展開を期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --