研究領域名:日本の技術革新-経験蓄積と知識基盤化-

1.研究領域名:

日本の技術革新-経験蓄積と知識基盤化-

2.研究期間:

平成17年度~平成21年度

3.領域代表者:

清水 慶一(国立科学博物館・理工学研究部・室長)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本特定領域は急速に失われつつある戦後日本の技術革新(イノベーション)の経験を収集・整備し、将来の技術革新につながる知識基盤として整備し発信することを目的とする。このために、本領域は1.戦後日本人がどのような技術革新を行ってきたかその経験を蓄積すること。(コレクション)2.日本の技術革新の要因等について分析すること。(アナリシス)3.将来の技術革新に繋げる知識基盤として整備し、利用可能なものとすること。(インタープリテイション)という3つのカテゴリーから成り立っている。
 これらのカテゴリーは相互に関連性を持ち、それぞれに計画研究・公募研究を配置することによって、個別研究間の連携と協力を促し、どのような技術革新がなされたかについての資料収集から、(日本の)技術革新の起こり方までを明らかにし、更に得られた成果は、理工系学生が利用できるよう整備し発信するという、全体的なシステムをつくりあげている。
 我国では技術革新について、これまで経営学等の観点から捉えられることがあっても、理工系技術者が中心となり、日本の技術革新を体系的に捉えようとすることは前例が無く、本領域がはじめての試みであろう。一方、終身雇用制が崩れつつあり、生産現場が海外に移転し、工業化社会が急速に進展する現在の日本において、科学・技術者が過去の経験を利用できるように知識を整備する学問領域の形成は不可欠である。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本特定領域の推進に当たり、初年度にあたる平成17年度は各研究の有機的な繋がりと効率的な運用のためのシステム作りを重点的に行った。また、18年度に入り公募研究が採択されたので、「プロジェクト型」「リスク管理」などにおいて如何に技術革新が行われたかの課題を設定し、計画研究と公募研究の連携をはかるなどの整備を行った。(以下各カテゴリーに沿って状況と成果を述べる。)
 1.経験蓄積(コレクション):様々な技術革新経験の内容の把握と収集方法が確立した。特にインスピレーションなどを聞き取る「技術革新のオーラルヒストリー」の方法を示し、膨大な文章を扱う「企業内資料」のデジタル化と検索方法などの基盤システムを形成した。現在、この資料収集を活発に行っている。また、技術革新情報のデータベース化相互の連携が重要と考え共通的なシステムを形成するよう作業を進めている。
 2.分析(アナリシス):どのような技術革新が行われたかを個別技術分野ごとにまとめる「技術発達の系統化」を担当する技術者の選定を行った。現在13の技術分野についての研究を進めている。個々の「技術革新の分析」研究を進め、これまで明らかではなかった分野の技術革新状況を明らかにするなど、大きな成果を上げつつある。材料技術・キーテクノロジー・要素技術などにおいて各技術分野相互間の共通性、共通要素技術の発達と個別技術革新との関連について明らかにするよう体制を整備し、研究を進めている。
 3.解釈(インタープリテイション):技術革新と日本の社会・文化などの関連を研究するモデル研究を計画研究として配置し、関連する公募研究を交えた研究体制を整備した。特に、「分析」での個々の事例研究の成果を如何に取り入れていくかについて調整を進めた。技術革新の一般化についての成果が期待される。本領域の枠組みと構成を広く検討するため、「(国内)フォーラム」と「国際シンポジウム」を各1回開催した。本研究に関連する主な成果としては、主要論文等30件、公開発表等5件、著書4件、新聞掲載3件の他、関連事業として本成果を基に公開講座を開き、成果に基づいた展示等が開催される予定である。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 本研究領域は、20世紀に展開された重要な諸技術を後世に遺すための極めて重要な課題であり、今後の国家的取り組み体制の提言を含むことが期待されるものである。しかしながら、これまでの経験の蓄積や知識の基盤化に関しては、従来型の人社系的アプローチによる成果が得られているものの、理工系的な学術成果としての深化は途上段階であり、研究推進の方向性や方法論が未だ明確になっていないように思われる。スキルサイエンスのようなアプローチによる経験蓄積・知識基盤化の推進や、科学的・技術的手法による分析・解釈により、体系的な知識の構造化を目指した研究領域の形成に努力を期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --