研究領域名:希土類系物質のパノスコピック形態制御と高次機能設計

1.研究領域名:

希土類系物質のパノスコピック形態制御と高次機能設計

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.領域代表者:

町田 憲一(大阪大学・先端科学イノベーションセンター・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 希土類の単体金属は通常、(n‐1)d1s2の外殻電子配置をとることから、これらのイオンも共通して3価になりやすいなど、化学的に相互に類似した性質を示す。しかしながら、La(ランタン)からLu(ルテチウム)までの一連の元素は、4f電子の有無やその数に基づく個性豊かな反応性と配位能から様々な物質群を形成し、これらは基礎および応用面で興味深い物性を示す。特に、4f軌道は5sや5dのそれよりも内側に位置するにも関わらず、他の元素や分子との組み合わせ(組成)や局所構造(配位状態)も含めた形態、これらから醸し出される電子状態などにより、希土類系物質の4f電子物性は顕著に多様化する。さらに、場合によっては効果的に増幅され、有用な機能として活用される。本領域では、興味深い特質を有する希土類からなる物質群に対し、ミクロ領域からマクロ領域にわたる広範な階層的、すなわち「パノスコピック」形態制御を施すことで、新規で多彩な物性を効果的に発現させ、さらには当該物質を材料として設計、システム化することで、基礎および応用の両面で意義のある高次機能へと高めることを目的としている。希土類系物質はこれまでに、磁性材料、光学材料、触媒などとして産業面でも広範に利用されており、得られる成果は、学術面はもとより、実用面でも大きな波及効果をもつものと期待される。また、本領域の中心的な研究項目である斬新で高度な形態制御手法の確立は、関連する科学および工学分野の発展にも大いに貢献するに違いない。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本領域では希土類系物質に対し、(1)形態制御手法の確立と機能物性の発現、(2)形態制御による高次電磁物性の評価と理論的解明、(3)形態制御による高次光物性の評価と理論的解明、および(4)発現した高次物性の機能設計と材料システム化について研究成果を得た。すなわち、ソルボサーマル、溶液錯体化学、液相析出、静電自己組織化、水素化不均化分解等の各手法を確立、適用することで、ナノ領域で組織化された希土類系物質を系統的に作製し、紫外線吸収体、高輝度蛍光体、GHz(ギガヘルト)帯域用電磁波吸収体としての興味深い物性を発現させると共に機能化した。また、これら形態制御手法と物性の機能化に関する知見を発展させ、パノスコピック形態制御を系統的に適用することで、新規物性や高い機能物性を有する磁性材料や発光材料の設計と作製に関する指針、結晶化ガラスや分子複合体を用いた光学デバイスおよびU帯域の光ファイバ増幅器の基本構成とその動作原理を提示した。さらに、希土類系物質を材料科学的に設計、システム化することで、市販品をも凌ぐ高保磁力永久磁石や高輝度蛍光体を実現した。特に、高い保磁力をもつNd-Fe-B系焼結磁石の作製において、高保磁力発現成分であるが資源的に稀少なDyの添加量を大幅に低減できることを明らかにした。
 今後は、上記で得られた成果を中心に領域内で緊密に連携し、基礎および応用の両面において意義のある希土類科学あるいは工学としての体系化を図る。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 希土類系物質のうち特に4f電子物性に注目して、ミクロ領域からマクロ領域にわたる階層的なパノスコピック形態制御を行うことで、磁性材料や光学材料などにおける基礎および応用の両面で高次機能へと高めることを目的としており、ランタノイド独特の性質を利用した機能材料が創製されている。また、個々の論文公表は活発である。
 一方、ミクロ領域からマクロ領域にわたる階層的形態制御に基づく高次機能の発現の具体的な成果がよく見えず、階層的形態制御のコンセプトが必ずしも明確とは言えない。研究領域全体をまとめる共通概念の構築を望む。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --