研究領域名:高温ナノイオニクスを基盤とするヘテロ界面制御フロンティア

1.研究領域名:

高温ナノイオニクスを基盤とするヘテロ界面制御フロンティア

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.領域代表者:

山口 周(東京大学・大学院工学系研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 イオンと電子が同時に移動する混合伝導体やイオン伝導体が金属などの異質な物質とヘテロ接触すると、その界面近傍に空間電荷層や表面電荷が生じる。これにより半導体においてはショットキ障壁が形成されることはよく知られているが、イオン-電子混合伝導体の場合には物質を構成するイオンや不純物・点欠陥が移動可能であるためにイオン欠陥によるナノスケールの緩和であるナノイオニクス現象が起こり、新たな動的界面化学機能が発現する。現在ではヘテロ界面をナノスケールで空間設計することが可能になってきており、ナノ構造制御したヘテロ界面を反応場として積極的に利用する新しい界面化学機能の開拓が実現できる状況にある。本特定領域研究では、ナノイオニクス現象に期待される、1.高いイオン欠陥濃度に起因する高速イオン移動機能、2.RedOx反応活性を有する界面反応場、3.種々の酸化/還元性気体に対する選択的反応活性機能を、ナノスケール構造体の次元設計と機能設計によりマクロスケールで実現するとともに、4.これらの機能を利用した新規デバイスへと応用展開する。このために必要なナノイオニクスを基盤とするヘテロ界面制御の学理を確立し、その機能設計と制御を可能とする「ナノイオニクス」という新しい学際的学問領域の確立を目指す。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本特定領域研究では、【A01】ナノイオニクス現象の基礎特性解明と設計、【A02】ナノイオニクス高速イオン移動固体の創製、【A03】多様なナノイオニクス反応場の構築と設計、【A04】ナノイオニクス応用デバイス・プロセス展開という4研究項目を設定し、基礎から応用までの広範囲な分野について、計画研究(13件)と公募研究(16件)の体制で2年間実施してきたが、いずれの研究項目においても新規現象や新物質の発見など顕著な成果が得られてきている。たとえば、YSZ/pt/気相や(La,Sr)CoO3/(La,Sr)2CoO4/気相の三相界面における表面反応速度の上昇という「正」の界面効果が初めて報告されたほか、ナノPt粒子/イオン伝導体の複合化によるイオン伝導性の消滅という不思議な「負」の効果、バルク体で高いイオン伝導性を有する材料における薄膜化に伴うイオン伝導の著しい向上も見いだされた。また、薄膜化による最大効果が現れる厚さが、空間電荷層の緩和長より桁違いに長いという結果は、界面緩和構造に関する新しいモデルの必要性を示している。また、第一原理計算によりpt/ZrO2界面における金属誘起ギャップ準位の存在が指摘されるなど、本研究成果は、電気化学システムのヘテロ界面の理解においても、ナノイオニクス的な界面の描像が必要であることを示している。以上の知見を基に、後半の研究ではナノイオニクスの学理の深化と新規な応用への展開を図る。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 酸化物/酸化物ヘテロ接触界面における酸素交換反応速度の顕著な増大という正の効果やナノ白金/プロトン伝導体分散体におけるプロトン伝導の消失という負の効果を代表例として、新規なナノイオニクス現象を数多く見出しており、研究成果は着実に上がっている。ヘテロ界面制御をキーワードに多数の共同研究者が組織され、ナノイオニクスの国際的研究拠点形成を目指して努力している点は評価できる。
 一方で、各組織の有機的連携とこれに基づくナノイオニクス現象の学理の確立に向けた更に踏み込んだ研究に努力の余地があると判断した。今後の研究期間において戦略的な視点を明確にし、ナノへテロ界面の設計に基づく顕著な現象の発現とそれを利用した素子開発といった点において、一層目に見える成果が上がることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --