研究領域名:最高エネルギー宇宙線の起源-デカジュール粒子による宇宙物理の開拓-

1.研究領域名:

最高エネルギー宇宙線の起源-デカジュール粒子による宇宙物理の開拓-

2.研究期間:

平成15年度~平成20年度

3.領域代表者:

福島 正己(東京大学・宇宙線研究所・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 現在確認されている宇宙線の最高エネルギーは1020電子ボルトを超える。我々の周囲に起こる光学・化学現象で発生するエネルギーは1電子ボルト程度であるから、その100億倍×100億倍(=1020倍)の驚異的なエネルギーが、極微の素粒子に集中していることになる。このような素粒子が発生するメカニズムとしては、天体爆発や回転する巨大ブラックホールでの粒子加速、ビッグバンから取り残された超高温・高密度空間からの放射などが考えられるが、未だに解明されていない。また、特殊相対性理論によれば、一定距離(約1.5億光年)より遠方で発生した最高エネルギー宇宙線は、宇宙空間を伝播する途中で背景放射と相互作用して、エネルギーを失うことが予測されている。これによって、地球に到達する宇宙線には1020電子ボルト近辺にエネルギー限界があることが予言されているが、宇宙線研究所のAGASA空気シャワー観測装置は11例に及ぶ超限界の宇宙線を観測している。本研究領域では、このような極高エネルギー宇宙線の存在を確立し、その起源解明を目指して、宇宙線望遠鏡(Telescope Array:TA)を建設している。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 地球に突入する高エネルギーの宇宙線は、大気上層部で原子核と衝突して核反応を起こし、発生した2次粒子が次々と反応を続けて鼠算式に増殖する。AGASAは、このような粒子のシャワーを、100平方キロの地表に分散設置した粒子検出器で観測した。一方、空気シャワーが大気中で発光することを利用し、これを高感度の望遠鏡で撮像する新しい観測方法が発展して来た。米国ユタ州の砂漠で、この方法を用いて観測したHiResグループからは、1020電子ボルトの限界エネルギー領域で、宇宙線の観測頻度が減少することが報告されている。本領域で建設しているTAは、AGASA方式とHiRes方式の観測装置を一ヶ所に配置し、地表アレイと望遠鏡の同時観測によって、測定の信頼度を格段に高める。観測サイトは米国ユタ州で、観測装置のカバーする面積は琵琶湖より広い700平方キロとなる。建設は日米の協力によって順調に進んでおり、2007年春には完成して観測を開始する。2年間の観測で、1020eV(電子ボルト)を超える最高エネルギー宇宙線の存在について結論することを目指す。本領域では、極高エネルギーでの粒子衝突の際に、最前方に発生する中性粒子を測定するLHCf実験も推進している。LHCf実験のデータは、空気シャワーのエネルギーを正確に測定する為に重要であり、欧州で建設しているLHC加速器を使用して、2007年~2008年に行なう予定である。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 10の20乗eVを超える極高エネルギー宇宙線の観測を目指して進んでいる蛍光宇宙線望遠鏡と地表検出器アレーの設置や周辺設備の準備については、不可抗力的な遅れが出たものの、概ね順調に進んでいると判断される。今後、計画通りに建設を完了して観測を開始し、AGASA実験で報告された極高エネルギー宇宙線の存否に決着をつけることが期待される。成果公表が会議報告論文に限られていることは、計画が建設期にある事にもよるだろうが、成果の今後の評価や若手育成のためにも、計測法やシミュレーション、既存データを使った論文等の発表の努力が望まれる。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --